リコリスの恋人~15~
夢を見た。
昔の悪夢だ。
起きた時、気持ちの悪い嫌な感じが背中に張り付いているような気がした。
吐きそうな気分だ。
重怠い体を引きずり起こして、洗面台に向かう。
ただでさえ、最近は寝不足で酷い顔をしていたというのに、夢見が悪かったせいか更に酷い顔になっていた。
溜め息をつきながら、顔を洗う。
昨夜はガーゼルが呼んだ応援と現場を検分し、死体は屯所へと運んだ。
俺達がいたところで、手伝えることは何もないのでその日は結局解散した。
後は鑑識班の調査待ちといったところだ。
鑑識の結果はまだ出ないだろうが、屯所には行かなければいけない。
何も仕事は殺人事件の捜査だけではないのだから。
軍服の袖に腕を通す。
一体何人死んでいくのだろうか?
最近は人が死にすぎだ。
戦争でもないのに。
何かの予兆なのだろうか?
あの日以来、神に祈ることはやめてしまった。
祈ったところで、神様が俺達を助けてくれるわけではない。
それを身をもって知ったからだ。
助かったのは俺だけ。
母は俺よりもずっと信心深く、熱心に祈りを捧げていたのに死んだ。
ならば、祈りは何の為にあるのだ?
神は決して俺達を助けてくれるような存在ではないのだろう。
そう思ったからこそ、軍に入ったのだ。
自分の力で、守りたかったから。
自分自身を。
大切な人を。
理不尽に屈する人を。
弱き人をーー。
守りたかった。
力がなくて、強者に屈するだけの人を自分が助けたかった。
なのに、俺は今も昔も、何も出来ない自分のままだ。
殺された人達に一体どんな罪があったのだろうか?
殺されるような罪があったのだろうか?
そんなことはない。
では、何故?
そう問わずにはいられない。
考えても栓のないことだ。
分かっているのにーー。
「はぁ」
重い溜め息を吐いて、家を後にした。
感想お待ちしてます。