間章~10~
世界が滅ぶ夢を視たーー。
三月も前のこと。
それは突然だった。
草木は枯れ果て、
大地はひび割れて、
人が大勢死に、
エルフが病み、
妖精が朽ちていくーー。
そんな夢を視たーー。
それは確かに滅びの夢だった。
かつての古世未であれば、下らない夢だと捨て置いたことだろう。
けれど、今の古世未はそれが出来なかった。
古世未には分かっていた。
それが、単なる夢でないことが。
その夢が数年後の未来、確かに訪れる未来であることをーー。
知っていた。
予知の力が、古世未に教えた未来。
それは、滅びの未来だった。
何十年も先の話ではない。
すぐ先の未来に起こる出来事だ。
そして、それはもう止められない。
もうすでに滅びは始まっている。
始まる前だったなら、止めることも出来ただろう。
けれど、滅びはもうすでに始まっているのだ。
その前兆として、あちらこちらに綻びが出来ている。
きっと止められない。
運命はもう変えられない。
覆水盆に返らず。
溢れた水が盆に戻らないように、一度起こってしまったことは元には戻らないという意味だ。
まだ、水は溢れてはいない。
けれど、盆にヒビが入ってしまった。
そこから水は少しずつ溢れていく。
このままでは、ヒビは徐々に拡がっていき水は全て溢れてしまう。それはつまり世界の崩壊だ。
一度入ってしまったヒビを直すことは出来ない。
わっち達に出来ることは、これ以上ヒビを拡げないことだけーー。
しかし、運命はヒビを深く拡げるほうに傾いている。
それを変えることは出来るのか。
止めたところで、溢れた水は戻らず、ヒビも元に戻るわけではない。
つまり、世界が滅ぶ未来はもうーー
変えられない。
ならば、止めることに意味はあるのだろうか?
わっちには分からない。
ただ一つ思うことは。
「わっちは、こんなにも冷たい世界でも、滅んでしまうのは惜しいと思いんす」
どうか、わっちのささやかな抵抗が溢れる水を掬い取らんことをーー。
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