傘の魔女~5~
星が照らす道を一人で歩く。
真っ赤な傘を差して。
コツコツと石畳に響く足音。
赤い雨を降らせよう。
そんなことを思いながら、夜道を一人で歩く。
夜風が露出した肩に当たって少し寒かった。
肩を出したイブニングドレスとフリルのついた赤い日傘はどことなくアンバランスだった。
けれどーー。
「傘は私のトレードマークですの」
一人呟く。
ねぇ? そうでしょう?
私は傘の魔女。
残酷で無慈悲なブラッディ・アンブレラ。
ねぇ? そうでしょう?
問いかけに答える声はない。
曲がり角を曲がると、人とぶつかりそうになって立ち止まる。
「っ……。ごめんなさい。前を見てなかったわ」
相手は若い女で、驚いて私に向かって謝る。
女が着ていたのは安っぽいが、随分と胸を強調するような服だった。
……娼婦か。
女はふらふらとして、酔っているようだ。
「……いえいえ。構いませんことよ」
傘を左手で持ち、右手で女の腹部にそっと触れる。
ざらざらとした、肌触りの悪い服だった。
「……何? ーーあ」
不信がる女がそれ以上何かを言う前に、手のひらから細い氷の刃を作り出し、それで相手の腹部を貫いた。
ぷしゅっと音がして、相手の服が赤く染まっていく。
「……あ。……ひっ」
恐怖にひきつる女の顔と声。
ぞくぞくするーー。
逃れようと抵抗する女。女の動きに合わせて、そのまま手を引き刃を腹部から抜き取る。
ピッと、血が飛び散ると同時に氷の刃は消える。
「誰か! ……あ、助けーー」
腹部を押さえて、私から離れようとする女が背中を向ける。
だが少し歩くと、痛みと恐怖の為か女は足をもつれさせて転んでしまう。
「う……。誰か……ひっ!」
顔だけをこちらに向けたその表情は恐怖でひきつり、その目から涙が溢れてた。
その女にゆっくりと近づいて、右手を顔の高さまで上げ、再び氷の刃を作り出す。
「いや……お願い殺さないで」
そう嘆願する女ににっこりと微笑んで見せた。
「……さようなら」
そして、手を振り下ろす。
氷の刃は的確に女の心臓を貫く。
ゆっくりと、女の血が石畳を汚していく。
見開いた瞳から涙が溢れていた。
女の死体をそのままにして、その場を離れた。
露出した肌についた女の返り血が、今はとても不愉快だった。
傘を両手でもち、夜の街を歩く。
私は誰?
残虐非道な傘の魔女。
白い傘を赤く染め、赤い傘を黒く染め上げる魔女。
ねぇ? そうでしょう?
時々、分からなくなる。
時々、忘れそうになるーー。
けれど、
「……そんなこと許されるわけないでしょう」
もう引き返せないところまで、来てしまいましたのよ?