間章~1~
御簾の向こうで、男が話している。
嘘偽りの報告をーー。
朕がそれに気付かぬとでも思っているのだろうか?
「それで、朕の贈り物は古世未には届けられたのか?」
そう訪ねると、男は。
“それはもう、大変お喜びになっておりました”
と、答える。
分かっておらぬ。
それを聞いて朕は思った。
全然分かっておらぬ。
この様子では恐らく、古世未は贈り物を男に突き返したのだろう。
男は処罰と叱責を恐れて、それを黙っているのだ。
「もうよい。下がれ」
男を下がらせ、何がいけなかったのか考える。
贈り物が気に入らなかったのだろうか。
それとも渡し方に問題があったのか。
「やはり、朕が持っていったほうがよかったのだろうか」
古世未なら朕が自ら動くほうを好みそうである。
「それはなりませぬ」
低い男の声が背後からした。
振り返ればそこには、臙脂色の着物に、目に痛いほど鮮やかな赤色の袴をはいた長身の男が立っていた。
「何故だ? 朱鳥」
男ーー朱鳥はこちらに近寄ってくる。
「分からないのですか?」
そう言って目を細める男の瞳は血のように赤く、後ろで一つに束ねられた髪は燃える炎の如き色をしていた。
一目で異質な存在だと分かる。
彼奴は帝の補佐であり、教育係でもあり、護衛でもあった。
勿論人ではない。
「分からんから聞いておる」
そう言うと朱鳥はさらに目を細くする。
朱鳥が目を細めているときは大抵機嫌が悪い。
主に怒っていることが多く、朕はその目で見られるのが嫌いだった。
「貴方は帝です。この国を統べるお方だ。これがどういう意味を持つかお分かりですか?」
知っている……。
朕の行動の一つ一つに多くの視線が集まり、ゆくゆくはこの国の行く末にも関わってくる。
幼い頃から幾度となく教えられてきたことだ。
しかしーー。
「朕は古世未が好きだ」
そう言うと、朱鳥は座っている朕の目線に合わせて膝をつく。
「良いですか? 相手は千里眼を持つとはいえども所詮は低俗な遊女。遊女ごときに帝が直接動くなどあってはならないのです」
真剣な表情で言い聞かせるようにそう言う。
どうしてなのだーー?
朕はこんなにも古世未を愛しているのに。
どうして、その気持ちを態度で表してはいけないのだ?
朕にはまだ分からぬ。
「貴方は幼い。今はまだ分からずともいずれ分かる時がくるでしょう」
不満な気持ちが顔に出ていたのか、朱鳥はそう言って部屋を出ていく。
去っていく背中を見つめながら、朕は分かりとうない、そう思うのであった。
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