リコリスの恋人~11~
暫くバルコニーで、夜風に当たってから広間へと戻る。
すると、ソート准尉がそこにいた。
「酔ったのか?」
俺に近寄ってきてそう尋ねてくる。
俺はその問いに首を振る。
「いえ、大丈夫です。こう見えても酒は強いほうですよ」
そう笑ってみせると、彼はそれ以上は聞いてこなかった。単純に心配してくれたのかもしれない。
その証拠にソート准尉は、無理はするな、とだけ言いおいて人の輪の中に戻っていく。
その背中を眺めながら、ふと先ほどロゼに言われたことを思い出した。
……しまった。ソート准尉に聞いてみるべきだった。
と、思ったが後の祭り。彼は既に人の群れに紛れてどこにいるか分からない。
まぁ、後でいいか。
特に事件と関わりがあるとは思えないので、頭の片隅にだけ留めておく。
さて広間を見渡せば、歓談してる人の割合が増えてきたようだ。舞踏会はあとどれくらいの時間続くのだろうか。
途中何か催しをしていたようだが、正直全く見ていなかった。
たとえ、この中に犯人がいたとして、今の自分に見つけられるとは到底思えない……。
密かにため息をつく。
窓の向こうでは星が小さく輝いていた。
ふと、彼女が頭に付けていた髪飾りを思い出す。
リコリスの髪飾りだ。
クラスター・アマリリスやヒガンバナなど様々な呼び名を持つ花だ。
確か、ヒガンというのは東の国の言葉で死者の国のことだったか。
その妖しい見た目のせいか、不吉な呼び名をもつせいか、死を呼ぶ花として忌み嫌う人が多い。
けれど、俺はリコリスの花が好きだった。
死者を弔う花。
とても優しい感じがする。
それを随分と前、出会った頃にロゼに話したのだが、彼女はそれを覚えているのだろうか?
こういう場に付けてくるのには、いささか不向きな花に思えた。
赤い花の髪飾りなら他にもあっただろうに、なぜその花を選んだのだろうか……?
小さな疑問。
もし、覚えていたとして、何故この場につけてきたんだ?
まるで、誰か今夜死ぬのだと、予言しているようで少し不気味に思えた。
結局、リコリスは不吉な花という印象が付きまとう花なのだろう……。
今度会った時にそれとなく聞いてみよう。
そう決めて、それ以上考えるのを止めた。
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