百目の王~1~
“あああああああああああああああああああ”
城内に反響する獣の如き、慟哭。
あの女が死んでから、毎日こうだ。
城中に響く叫び声。
朝から晩まで、力尽きて気を失うまで叫び続けている。
よく声が潰れないものだと、思わず感心してしまう。
しかし毎日がこれでは、謁見に来た者が不審がる。
いっそ喉を潰してやったほうが、奴のためにもなるかと考えたが、それはまだ実行には移していない。
あの女の死体を見た奴の殺気はおぞましかった。
この俺が鳥肌が立つほど恐ろしさを感じた。
あのままにしていれば、その場にいる者全てを殺しそうな勢いだったので、この俺自らが暴れる奴を抑えつけて自室まで運んだ。
正確に言えば、奴の自室に軟禁した。
それから何日が経っただろうか。
食事は運んでいるものの、一切手をつけないので、奴は徐々に衰弱した。
それはそれで静かで良いと思ったが、奴に死なれては困るので、俺が魔力で命を繋いでる。
死んでいない限り、魔力を相手に注ぐことで命を繋ぐことが出来る。勿論限度はあるが、絶食しているだけなら何てことはない。
これで首でもかっ切られたら困るのだが、部屋で暴れてはいるが、進んで自殺しようという傾向は見られない。
女を助けようと思えば助けられた。
だが、俺はそうしなかったーー。
奴がこっそり城を抜け出してスラム街に遊びに行っているのには気付いてた。
そこで女と会っていることも知っていた。
その女が人ではないことも分かっていた。
だから、忠告した。
その女は止めろ、と。
だが、奴は俺の忠告を聞かなかった。
そのあげくがこれだ。
元々、異種族同士の恋愛は上手くいかない。
それは昔からそうだった。
種族間の友好関係が原因だったりもする。
種族の性質の違いが原因だったりもする。
最終的に、どちらかが死ぬことが多い。
そもそも異種族で恋愛に発展することのほうが、不思議なのだ。
犬と猫で交尾はしないのと、同じだ。
鳥と魚が恋をするか?
住む世界がそもそも違う。
ハイエナとシマウマがつがいになるか?
片や食うほうで片や食われるほうだ。
それはありえないだろう?
だというのに、人魚は人に焦がれ、エルフは妖精に想いを寄せ、天使と悪魔は神に隠れて交じり合う。
一体それは何故かーー?
「……愚かしいことだ」
呟いた言葉は広い謁見の間に、吸い込まれて消える。
自分一人だけしかいない、広い空間は寂しげだった。
ここ一週間くらいだろうか?
あの叫び声のおかげで、謁見に訪れる人間は激減した。
時間が出来たのはいいが、いささか退屈でもある。
「随分と騒がしいこと」
声がして、ふと視線を上げれば、固く閉じられた謁見の間の扉の前に傘を差した女がいた。
赤い西洋のドレスに身を包んだ女は、ドレスと同じ赤い傘を差していた。
「久しぶりだな。……お前を待っていたよ」
この日をずっと、待っていた。
十年以上も前から、この日だけをずっとーー。
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