リコリスの恋人~8~
とまぁ、そんな感じで仮面舞踏会への参加が決まったわけだが、参加の可否でもめたなら、その後も盛大にもめた。
招待状は三枚。
つまり、参加出来るのは三人だけ。
この場にいるのは四人。
「招待状は三枚しかありませんから、誰か不参加になりますね」
当たり前のことだが、口に出して言うと即座にガーゼルが主張してきた。
「当然俺は参加だよな。何せ、情報を仕入れてきたのは俺だし」
そう得意気に言う。
「えー、僕も参加したいです」
そう主張してきたのはナッツェンだ。
そこで、二人が言い争いを始める。
「お前、先輩に譲れよ」
と、ガーゼル。
「僕はいつも留守番なんですよ!」
と、ナッツェン。
「二人とも落ち着いて下さい。ソート准尉とガーゼルとナッツェンの三人が参加すればいいじゃないですか」
自分が折衷案を出すとーー。
「「「それは駄目だ(です)」」」
三方向から否定された。
「ミヒャエル。お前と俺の参加は決定だ。お前がいなきゃ困る」
ソート准尉が真面目な顔でそう言う。
「ですが、自分はそういう場に出ることはまずありませんし、ボロが出るかもしれません」
自分は平民出身で、他の三人は一応貴族出身だ。
さほど、地位のある家ではないとはいえ、貴族は貴族。それなりの教育を受けているのだ。
それに対し自分は、片田舎の平民。
舞踏会などでは、ボロが出る。
「次の満月はいつだ? 一週間後だ。それまでみっちり特訓してやる」
ソート准尉がそう言って立ち上がる。
「……わっ」
肩を掴まれてそのまま引きずるようして連れていかれる。
「お前ら俺が戻ってくるまでにどっちが行くか決めておけよ」
そうガーゼル達に言い残して。
「ちょっと、どこへ行くんですか!?」
抗議するもーー、
「いいから、いいから」
と、流されてしまい、そのまま連れていかれる。
部屋を出るとき、後方でガーゼルとナッツェンが子供みたいな言い争いをしているのが聞こえた。
その後、訓練部屋を一つ貸し切り、ソート准尉によって貴族の所作、言葉使いをみっちり叩き込まれた。
少し意外だったのは、いつもは粗野なソート准尉が人が変わったように気品溢れる貴族らしい所作をしていたことだ。
やれば出来るのだなと思いながら、それから三時間みっちりしごかれた。
疲れはてて、部屋に戻るとガーゼルが得意気な顔で待っていた。
どうやら、最終的にじゃんけんで決めたらしい。
じゃんけんで決めたことをそんな得意気な顔されても、と思ったがそれは言わなかった。
* * * * *
そうして、今に至る。
一応一週間みっちりと特訓したものの、いつボロが出るかと冷や冷やしている。
ダンスを申し込まれないように、広間の端のほうの壁際で一人ワイングラスを傾けている。
他の二人は、探りを入れるといって他の参加者と踊ったり話したりしているようだが、自分はそこまで出来ない。
小心者、と自分でも思うがここから広間の人を眺めるだけで精一杯だ。
そもそもこういう場は苦手だ。
一度だけ上官に連れられて行ったこともあるが、あの時も酷く困った。
まぁ、そこでロゼと出会ったので悪いことばかりではなかったと思っている。が、しかし極力参加したくない。
そもそも参加するような事態になることが少ないだろうが。
そんなことを思いながら、ワイングラスを傾ける。
酒の良し悪しなどは分からないが、取り敢えず高級そうだ。
酒は強いほうだが、酔わないように気を付けながら呑んでいると、ふと視界の端に見覚えのある姿を見た気がした。
仮面をしていると、微妙に視野が狭くなる気がする。
仮面を少し邪魔臭く感じながらも、広間に目を向け見覚えのある姿を探す。
そして、すぐにその姿を見つけた。
プラチナブロンドの髪を上に結い上げ、真っ赤なドレスを身に纏ったその姿。顔の半分を銀のマスクで、隠している。
人混みの中でも一際目立つその姿ーー。
「……ロゼ?」
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