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リコリスの恋人~6~

 事件の調査に行った班が帰ってきたのは、夕方五時近くのことだった。



 ナッツェンもガーゼルもいい加減真面目に机に向かい始めた頃、勢いよく部屋の扉が開いた。




「よっ! ナッツェン、大人しく留守番してたか」



 入ってきて開口一番にそう言ったのは、ナッツェンが所属する隣のチームの班長、ソート准尉だ。

 その後をぞろぞろと班員や他の班の連中が続く。



「ソート准尉、お疲れ様です」

 ビシッと敬礼するナッツェン。

 その頭をぐりぐりと撫でるソート准尉。

 彼は二メートル近く身長があるので、背の低いナッツェンの頭は丁度良い位置にあるのだろう。

 その手を払い、頭を撫でるのは止めてくださいと、猛抗議もうこうぎするナッツェン。

 いつもの日常だった。





「よぉ。お疲れ。ミヒャエル。うちのが迷惑かけてなかったか」

 ナッツェンをいさめつつ、こちらに来るソート准尉。

 俺は書類から顔を上げ、立ち上がり敬礼する。

 俺の身長は平均的なので、やや上目線になる。

「お疲れ様です。ソート准尉。迷惑はかかってないですよ」




 俺がそう言うと、彼はいきなり肩を組んできた。

「わっ」

 突然のことに、少しよろける。

「おいおい。俺とお前の仲だろ。堅苦しいのは無しだぜ」

 そう言って笑う。

 背が高いだけではなくガタイもいいので、あまり勢いよく来られると正直支えきれない。

「仕事中ですから」

 俺がそう言うと、ソート准尉は真面目だな、と言って俺の肩から手を離す。




「捜査の進捗しんちょく状況はどうですか?」

 俺は手が離れたその瞬間、彼にすかさず聞いた。

 彼は俺の質問に顔をしかめる。

「進捗も何も一切なしだよ。全く」

 彼は自分の席に戻りどかっと勢い良く座る。

 彼についていき、机の傍に立つ。

「今回の被害者は誰だったのですか?」

 俺がそう聞くと、ソート准尉は部下の一人を呼んで、資料を持ってこさせる。




 彼の部下から資料を受け取り、中身を確認する。

 パラパラと資料をめくり、その内容に思わず眉を寄せる。

「メーベル家のご子息ですか……」

 メーベル家といえば名門貴族の一つ。

 王族とも繋がりが深い家だ。

「上は相当苛立っているぜ。軍の面子が潰れたってな。もう丁稚でっち上げでもいいから犯人を上げろ、何て言っているぐらいだ」

 あくまでも一部だが、と彼は付け加える。




 有力な貴族が、殺されれば軍の名誉にかけて犯人を早期に捕まえなければいけない。

 しかし、現状は噂話にすがりたくなるほどに、手がかりがないのだ。

「一部とはいえ、上層部がそう言っているのですから、先走ったことをする隊が出ないとも限らないですね」

「その辺の動向にも注意しといたほうがいいな」

 ソート准尉の言葉に頷く。

「下手をすれば軍の権威が下がりますからね」




 嫌な考えだが、組織に所属する以上仕方がないことだ。ただでさえ、犯人を捕まえられずに信用が落ちているところだというのに、そこへ更に自滅するよう失態は許されない。

 軍の権威が落ちればそれは、国防の弱体化に繋がる。それを好機とばかりに、敵国が攻めてこないとも限らない。





「とにかく、早めに犯人を見つけなくちゃなぁ」

 椅子に座ったまま天井を仰ぐソート准尉。

「いっそおとり作戦とかどうです?」

 ナッツェンがこれ名案とばかりに提案するが。

「却下」

 ソート准尉が即座に却下する。

「えー! 何故ですか?」

 目に見えてがっかりした様子のナッツェン。

 ソート准尉は、自分で考えろと切り捨てる。

 すると、ナッツェンがこちらに目線で教えてくれと、訴えかけてくるので、苦笑しながら教えてやる。




「犯人は無差別に犯行を行っています。現状、被害者の共通点がないんです」

 そう言えば察するかと思ったが、分からないらしく首を傾げている。




「つまりですね。こちらが囮になろうにも被害者の共通点がないため、囮になりようがない、というわけです。深夜に私服で街を彷徨うろつくくらいのことは他の隊で行ってるところがありますが、今のところ全て空振りに終わってます。つまり現状では無断手間になる可能性が濃厚なので、そういうのは他の隊に任せましょうということです」

 そこまで言うと理解したらしく、なるほどと頷く。





 まぁ、囮になるというのは悪い案ではないが、今回のような場合はちょっと向いてない。

 そもそも、囮というのは犯人の狙いがわかっててこそ出来るものだ。今回のように無差別殺人には向いていない。




「それになぁ、犯行時刻が全て深夜というわけでもないし、現状では巡回強化するくらいしか手立てがないんだよ」

 ソート准尉が付け足すように言う。

「打つ手なしってこういう状況のことを言うんですかね」

 今まで黙って自分の机に座っていたガーゼルが、急にこちらに寄ってきて言った。

 その言葉にソート准尉は頷く。

「ま、そうだな」





 俺は急に近寄ってきたガーゼルに向き直る。

「どうかしましたか?」

 そう聞くと、ガーゼルはニヤリと笑い、手に持っていた書類をソート准尉の机に置く。

「面白い情報ですよ。ソート准尉。この情報にノる気はありませんか?」


誤字脱字がありましたら、ご指摘願います。

感想頂けたらとても嬉しいです。

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