傘の魔女~3~
初めてあの人を目にしたのは、退屈な夜会でのこと。
これも高貴な私の務めと思い、参加したものの退屈で仕方がなかった。
けれど、あの人と出会えたのだから、悪いことばかりでもないと思えるのだ。
整った容姿に周囲の女は色めき立ち、こぞって話しかける。その様の何と醜悪なことか。
あの人は一人一人の女に丁寧に言葉をかけながらも、決して誰も相手にはしていなかった。
憂いを帯びた藍色の瞳に、私と同じプラチナブロンドの髪。緩くウェーブのかかった髪は恐らく天然なのだろう。細く長い指と白い肌はまるで女のよう。
女を誑かすその柔和な笑みの後ろには、蛇がとぐろを巻いているのが私には分かった。
この方は私と同類だとすぐに分かった。
人を殺し、その血を浴びて歓喜する。
こんなところで、同類と会うとは思っていなかったので、私にも好奇心というものが沸いた。
ついつい声をかけてしまったのだが、それが果たして良かったのか私にも分からない。
* * * * *
私は元々一人を好む。
所謂一匹狼だ。
けれど、何も誰かと組むのが嫌いというわけでない。
ただ、私と組むのに値する者がいないだけだ。
私にはプライドがある。
私よりも弱い者と組むなど、言語道断。
あり得ない話だ。
けれど、あの人は違った。
私よりも遥かに強く、そして優美であった。
その強さと美しさに私は惹かれた。
そしてその思想ーー。
誰かに手を貸すのも、誰かの命令に従うのもまっぴらご免だった。
けれど、あの人の為ならば、良いと思えた。
あの人の目的のその先を見てみたかった。
だから、私は手を貸すことにしたのだ。
要は暇つぶしだ。
長い時を生きる私は、様々な者を見てきた。
賢い者、愚かな者、強い者、弱い者、正義を振り翳す者もいれば、悪事と分かりつつもその行いをする者。弱きを助ける者もいれば、呆気なく殺す者もいる。
人は呆れるほどに愚かで、ドワーフは哀れに思えるほど醜く、エルフは笑えるほどにプライドが高い。
様々な種族を観察してきた。
あの人もその一人。
その生の先にあるものが見たい。
あの人が生み出すものが一体何なのか知りたい。
いつだって魔女の根底にあるのは知的好奇心。
己の知的好奇心を充足させる為なら、どんなに残酷で非道な行いであろうともする。
それが魔女だ。
そして、それが私ーー。
さあ、見せて頂戴。
貴方の命の軌跡をーー。