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傘の魔女~2~

 コツコツ、と石畳の上を歩く足音。



 宵闇の中に舞う白いドレス。

 太陽はとっくに沈みきった深い夜。その中にも関わらず、白いレースをあしらった日傘を差した人影。

 コツコツ、とヒールで音を立て歩く。




「うふ。うふふ」



 愉快そうな笑い声を上げる彼女の前方には、足をもつれさせながらも必死に逃げる男の姿があった。


 彼女はじわじわとなぶるように、男を追い詰めていく。

 袋小路へと、男を追い詰めると彼女は傘を持っていないほうの手を顔の横まで挙げる。




「ひっ……! 待って……待ってくれ」



 片手を前に出し、制止を促す。

 その様子に彼女は笑みを深くする。



「た、頼む……。助けてくれ」



 必死に助けを請う男。

 その額には脂汗が浮かび、顔は今にも倒れそうなほど真っ青だ。

 彼女は追い詰められた男の姿を見て残忍な笑みを浮かべる。



「うふふ。わたくし、あなたには何の恨みもなくてよ」



 彼女の言葉を聞いて、男は希望を抱いたのか、彼女の前にひざまずく。

「頼む……。助けてくれ。見逃してくれ」

 必死に請う男を彼女は見下ろした。

 そして、無情に告げる。



「嫌よ」



 顔を上げた男は絶望的な表情を浮かべる。

 その顔を見て、彼女はさらに笑みを深くする。

 顔の横に掲げた手を男に向かって払うように下ろす。

 するとーー。





「ギャアァァア!」

 男の腹を見えない何かが切り裂き、そこから勢いよく血が噴き出す。

 のたうち回り逃げようと足掻くも、立て続けに何度も男の体を見えない何かが切り裂き、次第にその体は動かなくなっていった。



 鮮血が彼女の白いドレスを赤く染め上げていた。




「うふふ。アハハハ」




 彼女はそれを楽しむかのように笑い声を上げる。

 その間にも不可視の何かは、息途絶えた男の体を切り裂き続ける。




 数分後には、男は最早人の形をしていなかった。

 飛び出た臓物を踏みにじり、彼女は笑う。

 深い闇の中に彼女の笑い声だけが響いていた。

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