砂漠に住む魔物~15~
遠くに懐かしい街並みが見えた。
赤や緑や青、色とりどりの美しいとんがり帽子みたいな屋根が見える。
一番高いのが王城。
俺の生まれた家。
他の屋根に阻まれてスラムはその姿さえ見えない。
なのに、そこが俺には家よりも恋しく思えた。
ようやく……。
ようやく着いた。
砂漠の首都レヴィン。
もうすぐだ。
ラストやっと俺たちの夢が叶うよーー。
* * * * *
街に近づけば近づくほど、背中に背負ったそれは重くなるように感じた。
しかし街に入ると、途端にスッと軽くなった。
あまりの重みに押し潰されそうになるほどだったのに、今では鳥の羽のように軽い。
やっぱり錯覚なんかじゃない。
この遺物は、まるで意思を持つかのようにその重みを変えている。
街に入る前は街に俺を近づけまいとするかのように重くなり、入った途端諦めたかのように軽くなる。
何て不気味なんだろう。
俺は背中のそれを薄気味悪く思いながらも、早くラストに会うためにスラムへと急いだーー。
やたら人でごった返しになっている市を抜け、ようやくスラムへと着いた。
俺はやや駆け足になりながら、ラストが待つ家へと急いだ。
しかし、着いたそこにラストの姿が見えない。
彼女は人にばれないように寝床となる場所をいくつか転々としているから、他の場所かとも思い他を当たるがそこにもやはり彼女の姿がない。
出かけているのか……。
それともばれるのを恐れて別の街に行ってしまっているのか……。
言いようのない不安が俺を支配しだす。
大丈夫。
大丈夫ーー。
そう自分に言い聞かす。
きっと何でもない。
見つからないのなんて、いつものことだ。
なのにーー。
どうしてこんなに不安なんだーー?
ふと立ち止まり、気付いた。
何でこんなに静かなんだーー?
スラムは大体いつも静かだが、それにしてもこの静けさは異常だ。
おかしい……。
スラムでも子供達が遊ぶ声や誰かが言い争う声なんかがいつもは聞こえてくるのに、今日はそれがない。
それにいつもは道端に座っている人が今日はまだ誰も見ていない。
何でーー?
「よお。グラセル。久しぶりだな」
突然、名前を呼ばれて振り返った僕の視線の先にはーー。
「……父さん」
漆黒の髪を風になびかせて、護衛の一人もつけずにスラム街のど真ん中で仁王立ちしたテオドア王の姿がそこにはあった。