砂漠に住む魔物~11~
尋ねた途端、彼女は顔を振り上げる。
赤い目を光らせて俺を睨み付けた。
「ええ! そうよ! あたしはグール。皆が恐れる砂漠の怪物」
宣言するように、そして自分に言い聞かせるように叫ぶ彼女。
「罵りなさいよ! 醜い化け物めって! よくも今まで騙してたなって! 罵りなさいよ」
髪を振り乱して叫ぶラスト。
俺はそんな彼女を見上げる。
「俺はそんなこと言わない」
ハッとしたように俺を見返すラスト。
動揺したように、さらに後ろへと後ずさる。
「……な、んで」
俯いて、一歩、また一歩と俺から離れていく。
「何で、言わないの? 私は人を食べる化け物よ。ノアのこと食べるかもしれないのよ」
ラストの顔は俯いているせいで、髪に隠れ見えなかった。
けれど、彼女の声は震えていた。
「俺はラストを化け物だなんて、言わない。人を食べるのは生きていく為だろう。なのに、どうしてそれを罵ることが出来るんだ? 俺たち人間が豚や鶏を食べるのと同じことだろう」
俺たちは多くの命を殺しながら生きている。
でも、それは生きていく為には必要なことだ。
それは人間だけに限った話ではない。
どの種族も皆、他の生き物を殺しその命を食らって生きている。
生きていく為には必要なことなんだ。
それをどうして罵ることが出来るだろう。
違うのは俺たち人間が食べられる側っていうだけ。
俺たちがグールを罵るのならば、俺たちだって豚に罵られても文句はいえないだろう。
だからと言って大人しく食べられろとは言わない。
生きるために抵抗していいと思う。
「この世界は弱肉強食なんだよ。強い奴が弱い奴を食らう。当然のことだ。恨むなら弱い自分を恨め。食われた自分を恨め、だ」
父が俺に教えたことだ。
父のことは嫌いだが、言っている言葉の全てが間違っているとは思わない。
ラストは俯いて黙ったまま、動かない。
「……ラスト」
呼び掛けるとピクリと肩が震えた。
「……何で? どうしてよ? 今まで皆散々あたしを罵ってきた……。よくも騙してたなって……。この化け物めって!」
彼女は震えていた。
泣いているのかもしれない。
俺は一歩ラストに近づく。
「ラストは自分を化け物だと思ってるの?」
俺の問いにラストは勢いよく顔を上げた。
その顔は涙でグシャグシャに歪んでいた。
「思ってないわよ!! 何で、食べるものが違うだけで化け物だなんて言われなくちゃいけないの!? 何で!? あんたたちだって、生き物を殺してるじゃない! 同族同士で殺しあってるじゃない! 食べる為でもないのにっ!」
ラストは心から叫び声を上げているように感じた。
悲しみと怒りで彼女の顔は歪んでいる。
ラストの美しい瞳から溢れるように涙が出て、頬を伝っていく。
「あたしたちは生きるために同族を食っても、それ以外の理由で同族を殺したことなんてない!! 人間のほうがよっぽど化け物じゃない! なのに、何で! 何で!? なんでぇ!」
彼女は崩れるようにその場に座り込む。
俺は慌てて 、彼女に近寄った。
「なんで、そんなに罵られなくちゃいけないの? あたしたちはただ、生きてるだけなのに……」
ポタポタと涙を溢すラストに俺は何も言えず、ただただ抱き締めることしか出来なかった。