表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/90

砂漠に住む魔物~10~

 まだ、母が生きていた頃の話。



 母にねだっては、おとぎ話を寝物語としていた。

「ねぇ、母様。お話をしてよ」

 寝床に入りながらも、隣に座った母の服の袖を掴みせがんだ。

 そうすると母は、父様には内緒よ? と言っておとぎ話をしてくれた。

 ワクワクするような冒険譚ぼうけんたんもあれば、悲しい恋物語やゾッとするような恐ろしい話もあった。



 その中にどの家でも必ず語られる、砂漠に住む恐ろしい魔物の話があった。

 人をおそい、人肉をかてとする恐ろしい怪物。



 その名もグール。



 子供をさらい、旅人をかどわかし、墓をあさる。

 時には人の姿。

 時にはハイエナ。

 姿形を変え、人を喰らう化け物。


 良い子にしてないと、グールにさらわれて食べられてしまいますよ。




 母は子供の自分にそう言った。





 * * * * *





 目の前に赤く光る瞳。

 キリキリと細い腕が首を絞め上げる。

 この細い腕のどこにこんな力があるのだろう、と思ってからそんなことを考えている場合でもないかと自嘲した。




 ラストは俺に一瞬にして近付くと、俺の首を絞め上げた。

 俺は抵抗する間もなく彼女の餌食。

 そのまま殺されるかも、と思ったのだが彼女は首を絞めるだけで殺そうとはしない。

 死なないように手加減されているようにも感じられた。




「……殺さ、ないの……か?」

 声を絞り出すようにして問うた。

「殺されたいの?」

 彼女は俺を嘲るように言った。



「……いや」

 俺は彼女の言葉を否定する。

 殺されたくはない。

 まだ、俺は俺の人生を生きてない。

「まだ、死にた……ない」

 彼女の首を絞める力が強くなる。



 酸欠で目の前がチカチカする。

 意識が飛びそうだ。

「……き、みは……俺をた……べた、ぃの?」

 途切れ途切れにそう問う。

 視界がかすむ。

 彼女は答えない。




「ラス……なら、こ……てもぃ……」




 ラストになら殺されてもいいーー。


 どうしてか、そう思った。

 死にたくない。

 でも、彼女になら。

 彼女の為なら死んでもいい。

 そう、本当に思ったんだ。


 死にたくないのに、死んでもいい。

 なんて矛盾。




 その時、ふっと首にかかる圧力が弱まったーー。


 ラストが俺の首から手を離したのだ。

 肺に空気が送りこまれる。

 俺はその場に崩れるように座り込み、咳き込む。




「……何で? そんな風に言えるの?」


 ラストは震えそうな声でそう言った。

 彼女の顔を見上げると、ラストはうつ向き髪で顔を隠すようにした。

 一歩、また一歩と後ろへ下がる彼女。

「あたしが何だか分かっているの?」

 彼女は服の端を握りしめていた。

 その手が震えているーー。


 呼吸を整えてから、彼女の問いに対し俺は問いを返す。

「……君はグールなのか?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ