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砂漠に住む魔物~9~

 ラストを探してスラムを歩いた。

 父に言われても尚、俺は彼女と会うのを止めなかった。


 俺は自分のことは自分で決める。

 ラストはまだ今月はこの街にいるはずだ。

 スラムを探せば簡単に会えるはず。

 そう思い、建物の角を曲がった瞬間人とぶつかりそうになる。

 慌てて立ち止まったが、向こうはこちらに気付いていなかったらしく、軽くぶつかった。

 ぼろをまとったその人影をよく見るとそれは俺が探していた人物だった。



「ラスト」


 名前を呼ぶと彼女は驚いたように顔をあげる。

「ノア……。また抜け出してきたの?」

 困ったように笑う彼女。

 俺は黙って彼女を抱き締めた。

 痩せ細った体。

 力を込めれば消えてなくなってしまいそうに思えた。

 ラストは黙って俺の背に手を回す。

 そうしてくれたことが嬉しくて、それと同時に彼女を失いたくないと思った。

 たとえ、誰が何と言おうとも俺はラストを愛しているんだ。





 * * * * *




「元気ないね。どうかしたの?」

 そう言って俺に微笑みかける彼女。


 今俺たちがいるのは家主のいなくなった家だ。

 壁に寄りかかって二人並んで座る。

 家具は前に住んでた人が全て持っていったらしく、家の中はがらんとしている。

 もしくは、スラムに住んでる連中が持っていったのだろう。

「何でもないよ」

 そう答えたものの、ラストに尋ねられるくらいだ。顔に出ているのだろう。


 彼女は困ったように笑う。

「いいよ。無理には聞かない」

 彼女のその言葉にどれだけ救われてきただろう。

 俺は彼女にこの国の王子だと知られたくなかった。

 彼女は俺のことを貴族の子息だと思っている。

 最初は庶民と誤魔化そうと思ったのだが、それはさすがに無理だった。

 ラストはすぐに俺が庶民ではないと気付いたのだ。



 王族であることを隠そうとすると話せないことも沢山あったが、彼女はそれを言いたくないなら言わなくていい、と言ってくれる。

 だから、俺も彼女が話したくなさそうにしてることは極力聞かないようにしてきた。

 けど、それは間違いなのだろうか?

 俺には分からなかった。




 * * * * *




 それから、数日忙しい日々が続いた。

 そのせいでラストと会えない日が続く。

 今思えば父の策略だったのかもしれない。

 俺とラストが会わないように仕向けていたのかもしれない。



 ようやく、解放された頃、俺は再びスラムへと足を運んだ。



 街を歩き、彼女の姿を探す。



 ほとんどの家が廃墟と化した住宅街を歩いていると、近くの家で物音がした。

 誰かいるのだろうか?

 そう思い、音のしたと思われる家の中をのぞいてみる。



「……あ」







 そこにあったのは血溜まり。

 それから人の腕。

 まるで胴体から引きちぎられたかのような腕が入り口に転がっていた。

 手のその先には痩せ細った少女。

 ボロをまとい、薄汚れた髪。



 ラストがそこにいたーー。












 彼女の目が赤く光り、少女の喉元に噛みついている。

 少女は一目で絶命していると分かる。

 呆然とその場に立ち尽くす、俺と視線が交差する。

 ラストはそのまま肉を噛みちぎり、咀嚼し飲み下す。

 その瞬間、猛烈な吐き気が込み上げた。

 しかし、喉がカラカラに渇き、吐くことが出来ない。

 背筋を嫌な汗が流れていく。



「……見つかっちゃった」



 彼女は口の端を吊り上げて笑う。

 赤く滴る血が彼女の白い肌を際立たせていた。

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