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砂漠に住む魔物~4~

 声をかけた俺を睨み付ける少女。

「……何か用?」

 小さな声で呟く。

 その声は少しかすれていた。


「特に用はないけど。何をしているのか疑問に思ったから聞いたんだ」

 俺はそう言ったけれど、本当は話をしてみたかっただけだ。

 彼女に好意を抱いたから。

 何をしているかなんて、一目瞭然りょうぜんだ。

 スラム街に住んでいる人間は大抵こんなふうにうずくまっている。

 理由は決まって皆同じ。

 きっと彼女もそうーー。


 分かっていた。

 けれど、彼女と少しでも話すきっかけが欲しかった。

「……どうでもいいでしょ」

 彼女はそう言って立ち上がり、俺が今来た方へと歩いていく。

 話は終わりということか。

 立ち去る彼女の後ろ姿を眺めながら、俺はきっともう一度会えるだろうと思っていた。

 予感だった。

 俺の予感は当たる。

 きっと彼女とはまた会えるだろう。





 * * * * *




 俺の予感は当たったな。



 過去の出来事を思い出しながら、俺は昼の砂漠を歩いていた。

 それも、体の半分はある大きな荷物を背負って。

 よく生きている人間よりも死体のほうが重いというが、それをこの身で実感することになるとは思わなかった。



 少女が小柄であった為に、軽いと思い込んでいたが予想外に重い。

 不要だと感じた頭部と腕を切り落としたものの、まだまだそれなりに重量がある。

 最初に担いだ際はさほど重いと感じなかったのだが、徐々に重さが増している気がする。

 自分の疲労と共に、実際の重さよりも体感の重さが増えたというところだろうか?

 地下神殿を抜け出てから、まだ30分も経っていないはず。

 それなのに、もう疲労がピークに達している。

 こんな予定ではなかったのに……。



「うっ……」

 疲労のあまり、うめき声がれる。

 もう限界だ……。

 地面に膝をつき、袋に入れて背中に担いでいた荷物を下ろす。

 そうして、乱れた呼吸をととのえる。

 本当はこんな予定ではなかった。

 その為、何の準備もしていない。

 袋は神殿から、人の目を忍んで勝手に持ってきたものだ。

 これがなかったら、もっと早くに力尽きていたかもしれない。



 それにしても、何て重さだろう。

 地面に置いた荷物を見る。

 本当に段々と重くなっているのではないだろうか?

 そう思えるほどに最初とは重さが違う気がする。

 俺はその場に座り込み、胡座あぐらをかく。

 この調子ではいつ街に辿り着けるか分からないなーー。




 ふと頭上を見上げれば、広がっていたのは雲一つない青空。

「このままここにいたら、ハゲ鷹にでも襲われそうだな」

 一人呟き、苦笑してから再び荷物を見る。

 大きさが俺の身長の半分ほどなのは、中身を紐で縛ったからだ。

 いくら小柄とはいえ、頭部を切り落としたくらいで、俺の半分になるほど小さくはなかった。

 俺だってさほど、身長は大きくないのだ。

 足を折り、袋と同じく神殿にあった紐で縛ったのだ。

 足も切り落としてしまってもよかったのだが、そうしなかったのにはちゃんとした理由がある。



 鱗が足に一番多かったので、その足を切り落としてしまうと人魚らしい部分がほぼなくなってしまう。

 そうなったら、これが本当に人魚なのか確信がもてなくなってしまう。

 自分の頭がおかしくなって、誰かを殺してそれを人魚だと勘違いしているのではないかーー?

 そんな疑念が自分の中に生まれてしまう。

 そうならない為に、足を残したのだ。

 胴体だけのほうが持ち運びは楽だが、俺は自分の記憶を信用出来なかったからーー。




 キツく目を閉じる。

 そうしてから、ゆっくり目を開き立ち上がる。

 あまり、長くは休んでいられない。

 これが本当に人魚とは限らないのだ。

 少女の話と付近の街に伝わる伝承から人魚と判断したものの、俺にはこれが本当に人魚なのかは分からない。勿論、確証はある。あったから、殺したのだ。それでも、不安になるのは、罪悪感のせいか?



 彼女なら、人魚かそうでないか、はっきりと分かる。もしも、違ったとき、また探さなくてはいけない。だから、早く行かなくてはーー。

 俺は荷物を担ぎ上げ、歩き出す。

 休んでいる暇などない。

 早く先へーー。

 早く彼女の元へ行きたい。

 会いたい。

 会いたいーー。

 そう強く思いながら、俺は再び過去の記憶を思い起こした。

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