砂漠に住む魔物~3~
俺の人生はとてもつまらないものだった。
俺の父はとても厳格な人であった。
少なくとも俺にはとても厳しい人だった。
父の期待に応えたくて、俺は必死に努力してきた。
父に、皆に、認めてもらいたかった。
でもーー。
ある時、気付いた。
俺は父に敷かれたレールの上をただひたすら走っていただけなんだとーー。
父は俺をいいように使っているだけなのだとーー。
それに気付いて、何もかも嫌になった。
今まで自分で選んできたことも全て、父の掌の上のことだったのかと思うと凄く悔しかった。
だから、抜け出そうと思った。
それは容易なことではなかったし、何度も失敗した。
けど、俺は諦められなかった。
自分の人生は自分で決めたかった。
誰かに決められた人生を生きるのは嫌だった。
だから、失敗してもやめなかった。
そして、遂に抜け出すことに成功した。
やっと、父から解放された気がした。
やっと、自分で人生を掴めた気がした。
全てから自由になった気がした。
けど、全然そんなことはなかった。
そんなものは幻想にすぎなかったんだ。
どこへ行こうとも父の面影が頭にちらつく。
父から逃れられなかった。
抜け出したことすらも、本当は父の掌の中のことなんじゃないかと思えた。
俺は何の為に、抜け出したのか分からなくなった。
自分で人生を掴みたかったはずなのに、俺は結局父の決めたレールからはみ出せずにいる気がした。
そんな時、彼女に出会ったんだ。
スラム街の一角で、彼女は一人地べたに蹲っていた。
座っている為に、長い黒髪が地面についていた。くすんだ色のスカートから覗く足はこの国では珍しいくらい白かった。
俺が側を通ると、彼女は顔を上げる。
その瞬間、目が合った。
俺を真っ直ぐに見つめるその瞳が、彼女の意志の強さを表していた。
肌は薄汚れているものの、その瞳は穢れていない。
彼女は俺には無いものを持っているような気がした。
正直に言うと、一目惚れした。
美しい彼女に。
穢れのない彼女に。
自由な彼女に。
自分には無いものを見出だそうとしたのだ。
「そんなところで、何をしているんだ?」
俺達の距離は僅か数十センチーー。
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