水
第一章 No water,no life.
水--それは僕達の身近にある液体。僕達が毎日飲んでいるといってもいいくらいだ。毎日必ず摂取して、自身に潤いを与え、しかも使い道がたくさんある。多分、無限にあると思う。そう、魔法の液体だ。
現在、僕、桜原 水人の住んでいる世界は、水が有り余るほどあった。まるで、水の世界だ。
衛星からのこの世界の写真は、水色のアメみたいだった。
国が水を飲み物以外に利用してから、百年以上が経っていた。五十年くらい前から、物にまで水を利用するようになっていた。家やテレビ、車といったあらゆる物にまで。身近にある鉛筆や消しゴム、ペンなどの小さいものはほぼ全て水が加えられて作られているらしい。これらは常識なのか、学校で知識として習う。水をどのようにして利用しているかは分からないが、絶対に言える事がある。それは……。
ちゅんちゅん、小鳥がさえずる朝、僕は昨日の夜にセットしておいた目覚まし時計の音で起きた。相変わらず寝起きは良くなかった。たまに、直ぐに眠ってしまうことが度々あったのだが、今日はすぐに起きることができた。お腹が減ったので、朝食を食べようとリビングに行く。机の上には、朝食が冷めないように包まれていた。......いつものことだった。母は、仕事に行く時間がとても早く、朝は大抵いなかった。だからかもしれないが、朝食はいつも美味しくない。(F1・父の環境)そんな気がする。朝食を食べて、顔を洗ったり、歯を磨いたり、服を着替えたりして身支度を済ます。
「行って来ます」
と、僕は玄関の前で元気がない声で言った。ドアが閉まった時の”ガチャ”という音が僕を見送ってくれている気がする。これも、いつものことだ。庭を歩き、両端にある小さい水路に目をやると、たまに魚の群れを見つけることができる。それを見れたらなぜか、幸せな気持ちになる。それは、多分自分が独りぼっちであることを忘れさせてくれる唯一の時間だったのかもしれない。そんな風景を見ながらこの長い庭をやっと抜けて、門を通る。この門は、結構な高さと厚さがある。しかし、それは外見だけでの判断で、実は軽く少し力をいれて押すだけで開いてしまう。これって本当に門なのか、と思うときも度々あった。門の前には道路、というより浅い川に近かった。なぜなら、道路に水が張るように流れているからだ。歩いても靴に水が入らない程度の浅さで、どこからともなく流れてくる。流石は水の世界だ。
僕は、その浅い川みたいな道をいつも独りで歩いている。独りは、嫌ではない。
この道は、夏の暑い日にはとても良い道だ。靴で歩くのではなく、裸足で歩くとその冷たい感覚が足に伝わり、気持ちよくさせてくれる。でも、良いことばかりだけでなく悪いこともある。それは、冬の寒い日には水が凍って歩くのが困難になる。でも、それはまず有り得ない。時間帯によって異なるが、気温がある温度よりも下がったら国が温水を流すのだ。その仕組みを知った時は、そんな馬鹿なと思ったのだが、今ではもう普通と感じている。水が有り余るほど・・・・・・あるのだから。
水を制御する存在のダム。ここからその姿を目視できる。そのダムの近くには未だに行った事がなく、その姿はまるで巨壁そのものだ。
この世界にダムは、必要不可欠。水の調整をしないと僕の住んでいる国が水に浸かってしまうからだ。道に流れる少しの水も調整されていると思う。もしダムが壊れたら・・・そんなことは考えたくもない。まぁその時はいずれくるだろう。ここに住んでいる皆がどれほど望んでいなくても、多分・・・・・・いや、必ず。
この街の噴水は、たくさんの所から水が集まってきている。ピチャピチャと水の音が耳にはいる。今僕はある場所に向かって歩いている。その場所はこの国のシンボルみたいな存在で、人がたくさんいて、いつも賑わっている。その場所の中央にも巨大な噴水があり、東西南北にわかれて大きな水路がある。水路の幅はとても大きく、巨大な橋をつかって行き来する。その水路の長さは確か十キロ、いや二十キロぐらいだ。その姿を地上からでは全部は見ることができない、上空から見ると全部見えるらしい。美しい十の形をしているんだとか。
歩いて三十分、漸くして目的の場所に着いた。そこで、まず初めに目にはいったのは、やっぱり巨大な噴水だ。水が優に四十メートルはあるんではないかという高さにまで舞い上がっている。その姿はとても綺麗で誰もが心を惹かれ、また癒されるだろう。この場所を知らない人は、まずこの国にはいない。そう、知らない人は......ありえないのだ。
さらにじっと見ていると、この噴水は東西南北の四方向から水がくるようだ。その水が噴水の水に加わる時の光景は素晴らしく、コップに四方から水が注がれる場面を表現しているみたいだった。
僕はこの街で日が暮れるまで過ごすことにした。噴水の近くにある、木でできているベンチに腰掛けた。まだまだ時間はある。何をしようか?普通は、みんなはもう学校に行っているだろう・・・普通は。でも、僕は何となくという我が儘で学校を休んでいる。休んでいるというか、さぼっているといったほうが正しい。ここの街は人が多いので誰かにばれたらすぐ学校に連絡がいくだろう。まぁそんなこと僕は気にしないからいいけど。まずばれるということはない。そんなことはまず、有り得ない。なぜなら・・・
今日の天気は快晴だ。もうすぐ昼だけどお腹は減ってはいない。ベンチに座っているとなんだか眠たくなってきた。体に当たる風も、温度も心地よいからだ。でも、今の季節は夏。というより季節は温度や湿度などにはまったく関係ないといってもよい。春夏秋冬の季節は、もはや過去の設定だ。ここにいるほとんどの人に「今の季節は何ですか?」って質問すると多分ほとんどの人が答えられないだろう。つまり、それほど季節はあまり生活に必要ないということだ。それに、なぜこんなにも涼しいかというと、これも水を利用しているからだそうだ。地面に少量の水が流れているということもあるが、やっぱり水のドームの力で太陽を遮っていることにあるのかもしれない。
この水のドームがあるから僕たちは生活できている。といっても良いくらいだ。水のドームが作り出す、この国を覆っている膜は、すごく薄いらしい。だから、そのため僕達、人間はそれを目視で確認することができない。代わりに見えるのはよく分からない風景だ。僕は今でもありえないと思っている。あの水のドームがあるだけで、温度や湿度が調整されることを。その水のドームの膜に触った人は、全人口の一握りしかいないようだ。僕は、それ以外の方に分類されるのかな。
その水のドームの膜に触りたい人は沢山いるが、水のドームの周辺は厳重な警備があり、その警備は三重にもなっている。一つ目は銃などは持っていない軽装備の軽い警備網、二つ目は銃を所持している重装備の厳重な警備網、三つ目は銃を所持している重装備の人と機械などの超厳重な警備網だ。さらに三つ目の場所に限っては、一つの扉を開けるたびに暗証番号と指紋が必要らしい。
このことは普通の人は知らない。
水のドームは、誰が見ても侵入することが不可能に感じるくらいの規模だ。不用意に近づくことはできない。
僕は普段は学校をさぼっていて家にある本を読んでいる。読む本は父さんの書斎から持ってくることが多く、難しい本なども混ざっている。その中に青い本の「水のドームについて」という厚さが5センチくらいありそうな本があった。学校でも一応水のドームについては学習するのだが、この本には学校では習わなかった細かいところまで書かれてあり、興味津々に僕はそれを何回も繰り返して読んだ。だからこんなにも僕は水のドームについて詳しいのだ。
父さんは事故で亡くなった。水のドームの中での実験で命を落としたんだ。事故の原因は僕たちにも教えることができない極秘事項だそうだ。その時、母さんは不思議と泣いていなかった。泣くのを我慢していたようにも見えていた。
いつか僕は、この水のドームに潜入して父さんが亡くなった事故についての原因を探しだす。それが僕の夢でもあった。それを実行する日は意外と近いのかも知れない。
いつの間にか辺りが暗くなってきた。時計に目を向けると、時計の針が8時を指していた。
「もうこんな時間か・・・早く帰らなければ」
僕は、三十分かけて家に戻った。
「ただいま!」
と言いながら扉を開けたが、家には誰もいなかった。これも・・・いつものことだ。母さんは、夜の10時ぐらいと帰りが遅いのだ。多分それほど忙しいと思う。だから、僕は母さんのことが心配でたまらない。いつ病気になってもおかしくないほど体が疲れていると思う。家に帰ってきて、僕のご飯を急いで作って寝る。これが習慣になっている。いつ起きているのかは・・・知らない。
第二章
ジリリリリリリ、けたたましい目覚ましの音で目を覚ます。眠たい目をこすりながらも時計を見ると6時だった。
今日は、学校がある。いつもより早く行くか。
そう決めると、いつものように身支度を済ませた。
「行って来ます」
また、元気がない声で言った。
少し庭を歩き扉を閉めて学校に向かった。ここから学校までは歩いて約10分くらいの距離だ。まだまだ授業が始まるまでは時間がある。さて、どうしたものか......。
すると、肩をいきなり叩かれた。2、3回トントントンと。
いきなりのことで、振り返るとそこにいたのは。
「よ! おはよう!」
こんなに朝早いのに、テンションが低い自分とは多い違いに、絶好調と言わんばかりのすがすがしい声だった。
「なんだ、いきなり驚かせんなよ。」
「いやいや、悪い悪い。なんたって、知ってるやつがそこにいたからね。」
「はいはい、分かったよ」
相内江尾。彼との付き合いは長い。自分が知ってるなかでは一番長いと思う。