ヨミ様、喧嘩はよくありません!
「詠様……」
食事中、気を遣われたのか食堂の扉の前に現れて仁王立ちされる詠様の御姿は、幼子のように小さいながらも、人を喰らう巨人のような威圧感……もとい、女神のような慈悲に溢れておられました。
しかし……空気が重くなったのは、七罪の皆さんにとってのラスボスとも言うべき詠様が来られたからでしょうかね?
「イズモや」
「あっ、はい!」
「ワシの食事はまだかのう?」
「…………あ、はい」
ラスボスが降臨したような空気の中、七罪には『誰かツッコめよ』という雰囲気になったとか……
夕食後、ルシフェルさん達に呼び止められたボク達はまたしても……本日二度目の裁判に呼ばれた。今度は証言者としてではなく、被告人席に……
被告人として座ることになったのはいいんですけど……
「あの……詠様?」
「なんじゃイズモ?」
「なんでボクの背中に」
「疲れたから担いで欲しいのじゃ」
「えぇー…………」
あれ、詠様との距離感はこんなに近かったでしょうかね?
「容疑者、神河 詠こと大天使ヨミ」
「え? ヨミ様が被告人だったんですか?」
てっきり、さっきからヨミ様といちゃついている(ヨミ様から一方的に)事の裁判かと……
「これこれルシフェルや……智天使ヨミ様、じゃろう?」
「ヨミ様もツッコむところ違いますよ!」
「イズモ死刑囚は黙ってるッス」
「あ、はい」
…………死刑囚!?
「ちょ! ちょっと待って下さいよ! なんでボクが死刑に」
「そうじゃ! ワシの階級を間違えた挙げ句、イズモに死を言い渡すなんぞ、神の名の下にお主に罰を与えるのじゃ!」
「あーうるさいうるさい! 所詮痴天使の分際で元とはいえ熾天使の私に罰を与えようなんて!」
……ひょっとして……犬猿の仲、みたいな……?
少し目を離した隙に、ボクの背中を降りてルシフェルさんの座る裁判長席の目の前で今にもつかみかかろうという状態でした。
「天使未満の堕天使が熾天使候補のワシに何を言うか! 大嫌いじゃ! お主なんぞ敵じゃ!」
「それは私もおんなじよ! そもそも悪魔と天使は敵同士なのにそれだけ言うって事は相当なひねくれ者ね」
「黙らんかぺったんこ!」
「黙るのはそっちよチビ!」
……ああ、この2人……仲悪いどころじゃないですね、水と油……いえ、水と火や自然、光と火や闇のような相性の悪さですね……
そんな、誰もが……ボクでさえさじを投げるような状況の中、1人の悪魔が……マンモさんが立ち上がり、2人を仲裁しようと2人の間に……
「やめてよ2人とも! 喧嘩なんて」
「男女は黙ってろなのじゃ!」
「強欲(笑)は黙ってなさい」
…………瞬間、空気が凍りついた気がした……
あくまでそんな気がしただけなのだが、マンモさんの張り付いたような笑顔を目にし、実際に凍りついたような錯覚に陥った……
「あはははは、2人とも……中々面白いジョークじゃないかぁ……」
……首筋にチョップを喰らい、正気に戻された。
「こっからズラかるぞイズモ」
「…………逃げましょうか」
世の中には触れてはいけないことが沢山ある。年齢の事、女性の体型の事、顔のこと、ハゲのこと……そしてキャラ性の事……
こういった触れてはいけない事が地雷ですけど……
とどのつまり何がいいたいかといいますと……お二方がマンモさんに『酷い目』に遭わされたのはインガオウホーです。
その夜、何かに怯えていたかのように、2人は寄り添って眠ったとか。
(比較的)真面目キャラはキレると怖いという典型例。
アスモさん>マンモさん>>イズモ>(以下略)みたいなマトモ度ですけど。イズモ君には少し常識とかが抜けてますからね




