今明かされるとくに衝撃的でもない過去話
「イズモ! 出掛ける準備をするのじゃ!」
ある日……詠様のやっていた仕事のうち、半分を十分引き継げる程度に習得してきた頃、詠様が先に仕事の準備をしていたボクに対して叫ばれました。
「あ、はい! 詠様! ……あの、返事したのはよいのですけど、ところでどこへ……」
「ふっふっふ……決まっておるであろう?」
「…………えぇっと……? どこ……ですか……?」
山や海に行くと言う夏や、世界一周ついでに海外の美術館に行く秋、暖かい国の別荘に一時的に引っ越すような冬ならまだ分かりやすいですよ。
しかし、春なのに、何が決まっているのかは正直ボクには理解できません。
お花見は先日済ませました。詠様が老若男女様々なご友人(一部人ですらない方もおられましたけど)を招かれ、古今東西様々なお酒を摂取され、何故かボクも少しだけ飲むハメになりまして、次の日は二日酔いで寝込むボクを後目に、ピンピンしておられた詠様は記憶に新しいのですが……
他に春らしい事といえば……春らしい事……
春とはいったい……? ウゴゴ……
「焦れったいのうイズモは……安心せい、無理を言って今日明日の予定を開けた故に一泊二日で済ますのじゃ」
「一泊二日……」
あまり遠出はしないつもりなのでしょう。そして詠様は飛行機があまりお好きではない……
「……つまり、国内ですか?」
「場所でいえば首都圏の方じゃな」
首都圏……? うーん……詠様の御趣味のアレですかね……?
「本場のカーキ」
「それにその名を出すなたわけ! それにまるで違うわ! どアホウ!」
「……ホビス○ですか?」
「違うのじゃ!」
「むむむ…………じゃあ、秋葉原にでも行くつもりですか?」
「ほう? お主がわしに抱いておるイメージがよぉく分かったぞ、イズモ……」
そろそろ本気で論理的に考えないと詠様の怒りがカレーパンな即死コンボみたいになっちゃいますね……
春……具体的には5月の始め、まずこの日に何があるか……今日は5月5日、世間一般でいえば今日はゴールデンウイークの最終日……そして、より詳しく言えば……
「こどもの日ですか……?」
「ふむ……イズモにしてはようやったのう。30点じゃ」
「……低くないですか?」
「悩む時間が長いゆえにマイナス10、ホ○ステカーキ○アキバでそれぞれマイナス20じゃ」
「あ、妥当でした」
詠様に対して冗談はあまり通用しないから……まあ、20点ずつで良かったとは思いますよ。二回目で組み伏せられて首に手を添えられることもままありましたし……
「こどもの日……こども……?」
まるで意味が分からない連想ゲームですよ、これは……
「……遊園地とか……ですか?」
「ふん、褒美として10点を追加してやろう」
「あ、ありがとうございます」
「しかし……この程度の謎かけさえ解けぬとは、誰とも結婚出来ず仕舞いで将来もわしと共に過ごすことになるぞ?」
「……ボクはそれでもいいですけどね」
「今生意気な言葉を発しなかったかのう?」
「いーえー、なぁんにも言っていませんよ」
ボクはボクと詠様以外ほとんど誰とも接することなく、町外れの屋敷でひっそりと過ごしている方が好きだから、言葉通り詠様とずっと一緒でも別にかまいませんよ。
流石に詠様と面向かって言えるほどの度胸はありませんけどね。
「ふん、まあよい。それでイズモよ、どこの遊園地に行くかは分かるか?」
「…………《浦安の夢の国》……ですか?」
「鈍いな」
詠様に鈍いと言われました……ボク、これでも頑張っているつもりなんですけどね。
「……まあ、ボクは詠様と一緒であればどこでもいいですけどね」
「ふん、イズモにしては世辞が上手いな」
「お褒めに預かり光栄です。詠様」
「皮肉のつもりだったのじゃがな……まあよい。支度をするのじゃ、イズモ」
「……とまあ、一度こんな感じで旅行に行くことになりまして……詠様本人はボクを楽しませるためと仰っていましたけど、明らかに詠様の方が楽しそうでしたけど、ボクとマコトさんのひみ」
「湯冷めしてしまいましたわ……それに、延々と惚気話を聞かされるわたくしの気持ちにもなりなさい」
「…………、……『詠様は非常に素晴らしい人間だと改めて感じました』?」
「一遍六道巡ってきなさい!」
……何が悪かったんでしょうかね?
なに?悪魔が出てこない?いずれでるさ、いずれな




