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炭坑夫の始まり

 カァン! カァン!

 鉄製のピッケルで岩盤を砕く、甲高い音が響き渡る……

 一昨日、お義父様に言われたのは日本海側のとある小さな無人島(ということになっている島)にて、一週間ボクの許嫁と生活してこいということ……

 あくまでもこれだけ……なのに、何故わざわざ島の古い洞窟で炭坑夫の真似事をしているかというと……

「掘って掘って掘り進むのよ、わたくしのイズモ……ウフフっ、この際金でも金剛石でも構いませんわ……とにかく見つけなさい」

「分かりました……」

 きっとボクとの婚約指輪にでも使うのであろう、金もしくはダイヤモンドを採掘するために、ボクは働かされている……

 2日目にしてボクの体はもうボロボロ……デスクワークばかりしていて体を鍛えることを怠っていたことを今更後悔しています……

 しかも、恐ろしいことに、まだ5日間も残っています……

 ……労基法的には大丈夫なんですかね? 家事手伝いで誤魔化されますか、そうですか……

「はぁ……はぁ…………」

「はぁはぁ……はぁはぁ……」

「……はぁ……どうか……しましたか……マコトさん……」

 一息つき、タオルで額の汗を拭っていると、マコトさんの息遣いが危ないような気がしたので、放って置くわけにも行かないので、ついつい聞いてしまった。

「はっ…………べべべ、別になんともありませんわよ」

「そうですか……なんともなくて良かったです」

 と、一息つくのはそれぐらいに、作業を再開……

「はぁはぁ……はぁはぁ……」

「……無理はしないほうがいいですよ、マコトさん」

「はっ……別に無理なんて」

「そういうことを言っている人ほど無理しているんですよ……ボクはそういう事に詳しいんですからね」

「……分かりましたわ……では、一緒に戻りましょう?」

「え……あ、はい」


 そんなワケで……お風呂……

「どうしてこうなったんでしょうか……」

 この状況の意味が理解出来ないほどにボクは子供ではありませんし、この状況で動じずにいられるほどボクは聖人君子ではありませんし、更に更に言うと、この状況で逃げ出せるほどボクはサディストではありません。

 ……あれ、ボク、マコトさんに弄ばれてるんじゃ……

 腰にタオルを巻いてはいるものの、流石にこれはマズいのでは……?

 そんな事を考えていると、マコトさんが入ってきた……

「ご機嫌よう、イズモ」

「ぶっ」

 ただし、長い金髪すらそのままで完全に全裸というあまりにアレなスタイルで。

「ななな、なんでタオルを巻いていないんですか!」

 チラリと見えてしまったのは不可抗力……そう、不可抗力です……なだらかな胸……柔らかそうなお腹……ちくわ道明寺……ほっそりとしている足……

 ……ちくわ道明寺って何?

「文句はありませんわよねぇ、イズモ?」

「アッハイ……」

 こうなったら、心を無にするしかない……無に……何も考えず、なにもしない……ただひたすら無情……

「イズモ?」

 あれ……なんだが息苦しく……

 というか……溺れて……

「イズモ!」

 すいませんね……こんな許婚で……

 薄れる意識の中で、ボクは懺悔した……


 あんなこともあったなぁ……ってあれ? これって走馬灯?

「……モ……イズモ……! イズモ!」

「は……い……!」

 ここはどこ……お風呂場? 確か、一緒にお風呂に……?

「早く続きをなさい!」

「続き……?」

 走馬灯のせいで記憶がうまく繋がらない……記憶がすっぽりと抜け落ちているかのように思い出せない……

 泡まみれのマコトさん、メイドっぽい服のボク……

 そしてボクの額にはたんこぶ……

 分かったような分からないような……

 ……思い出しました。とりあえず洗い流せば……いえ、その前に髪を洗わなければ……

「あのマコトさん、シャンプーハットは」

「惨たらしく死ぬがいいですわ」

「えー……? ヨミ様はいつもつけておられたんですけど……マコトさんは必要ないんですか?」

「大義叔母様はシャンプーハットを必要としていたんですの……?」

「え? 女性の頭を洗う時には必ずシャンプーハットを使えとヨミ様におそわったのですけど……」

「……意外な一面ですわね……」

 人によってはまるで神のような扱いのヨミ様なのですけど、すぐ隣にいたボクからしてみれば恐ろしく頭の切れる人、それ以上でもそれ以下でも……

 あ、少し子供みたいなところもある、とても素敵な人という評価も付け足したいですね。

「……後で聞かせてもらいますわ、あなたの大切な、ヨミ様との思い出話を」

 そう言ってマコトさんは、前を向いた。


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