1.ルシフェルさんの場合
ルシフェルさんですが、指パッチンする天使とは別……ってネタが古いですね。作者はミザちゃん並にいけてないですね
朝……何かの歌で希望がどうとか言っていた気がしなくもないけど、私にとって朝の時間は少なくとも3つの絶望で出来ているわよ。
夜更かししてまでネット上でチヤホヤされていた時間が終わる絶望、またしても眠らずに夜更かししてしまったという絶望、そして……
「起きなさいイズモ! 今日こそはアンタに堕落してもらうわ!」
根っから……どころか、遺伝子レベルの善人を堕落させようと奮闘せざるをえない1日が始まったという絶望……
最後が一番キツいわね、イズモに対してはなにを言っても無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄。のれんにアームロック。
「ところでイズモ……アナタ本当に人間なのかしら?」
「あはは……結構言われますよ、『お前には人間味がない』って」
まあ、おそらくは人間なんでしょうね。あいつとの賭けの条件で、あいつはちゃんと
「神河イズモという人間を堕落させることができればあなたがた達七罪の悪魔の勝ち、もし出来なければわたしの勝ちです」
って、ちゃんとイズモが人間だって前提条件を提示したものね……
ちなみに賭けの期間はイズモが死ぬか私達全員が降参するまで。
この条件を聞いたとき、サタンは自分達がなめられていると憤怒し、マンモは勝ったときにどれだけの財を奪い取れるかを予想し……アスモはレヴィでなくとも妬ましい程の脂肪の塊を揺らしながら困惑した。だからついかっとなって脂肪の塊にビンタした。後悔はしてないわ。
他の3人? レヴィは何故か私に嫉妬、ベルフェゴールは面倒くさそうに聞き返したわ。
そしてバアルは……どこぞのジョーのように涎を垂らして喜んでいたわ。本人曰わく、イズモの住む日本のご飯は未知の料理だから、きっと黄金色に違いない、とのこと。
……まあ、現実は残酷ね。黄金色の料理なんて……まあ、ほぼ無いわね。でも、程よく飽きない甘さの『わがし』とやらが気に入ったらしいし……まあ、結果的には大丈夫で問題はなかったかしら。
イズモに買収されたという事を除けばだけど。
……いくら暴食のバアルゼブルでも、胃袋を質にされれば手も足も出ないというわけね。
バアルゼブルが食欲に忠実なだけだったという見方もできるけど。
「あ、そういえばルシフェルさん」
「何かしら?」
「昨日、ボクの部屋の冷蔵庫にしまっておいたプリンを食べたのはルシフェルさんですか?」
……勘の良い奴は嫌いよ……
「し……知らないわ……そうだわ、あのハ……バアル、あの子の仕業じゃないかしら?」
「あーバアルちゃんですかー……後で聞いておきましょうか……無断で食べた事は流石に一言言っておきたいですから」
……別に怒られるのが怖かったからじゃないのよ。あくまでも……悪魔だから。そう、悪魔だから原点回帰してちょっとした嘘をついてみようと思っただけなのよ。
私を信じてくれないかしら?
なぁんて、嫌な事思い出しそうになったわ……私が悪魔になる前のこと……私が傲慢の罪で堕天する少し前の……悪魔基準じゃなくて普通の人の基準でも少し前の……あいつのセリフ……
あの時のあいつも嘘を……いえ、間違いを……
「ルシフェルさぁん!」
「っ……べ、別に小腹がすいたからってプリンは食べてな」
「何を考えていたんですか? 怖い顔してましたけど、どうしたんですか?」
「…………いえ、なんでもないわ……ただ考え事をしていただけよ」
「そうですか……誰にでも思い出したくないことの一つや二つはありますからね」
なんでアンタは……なんでイズモはあいつみたいに分かったように……!
「だから私は」
「ボクは人の感情の事には結構敏感なんですよ……ボク自身があまりに鈍感だからかは分かりませんけど…………それに、月に1回の頻度で懺悔を聞かされる機会がありますから……まあ、そんな事はさておき、朝ご飯にしましょうか、ルシフェルさん」
「え、ええ……」
やっぱりイズモは何かを私たちに隠していないかしら……? それも、かなり重要な事を……
「それと、あとでちょっとしたお説教をしますね」
隠せるような性格じゃあなさそうね。