3話
悲鳴や叫び声がこだまする大型のホール。そこではなだれ込んで来た兵士達と逃走する賓客や王族、貴族達で溢れていた。アグマは緑色の肌の顔に憎しみを表しながら
「邪魔だ!」
アグマは鎧を着込んだ歩兵三人を一瞬で血祭りにあげた。一人の陸兵の槍がアグマの肩に刺さる。
しかしアグマは平然とその槍を引き抜き二つにへし折った。それからも一人、二人、十人、三十人と精兵を殺戮した。もう戦おうとする衛兵は居ない。
圧倒的な強さを目の当たりにして敗走してしまったのだ。
「お前も邪魔だてするのか? その赤虎の臭いがする小僧を差し出せ。それなら命は助けてやろう」
アグマは緑色の口角を上げシニカルに微かに笑いながら喋った。それに両手で剣を構えるクラトは答える。
「教え子を守るのは先生である僕の責務だ。その要求は飲めない」
クラトの後方でトールは赤髪を小刻みに揺らし震えている。アグマの目はトールを見据えている。トールはまるで蛇に睨まれ蛙のように身動きがとれない。
彼は十何年という短い人生の中でこの瞬間、瞬間に最も恐怖を感じ取っていた。生きた心地がしない。頼りになるのは孤児院から引き取ってくれた恩師のクラトだけだ。




