赤い海岸
「終わらせたい」、そんな感情に殴られながら美緒は定時制の夜間学校から帰宅した。生活できるのか怪しいほど何もない部屋。その部屋のアナログ時計の針は深夜の2時を指していた。
いつもなら普通の足取りで帰宅できるのに、今日だけはひどく体が重く、倦怠感に襲われていた。脳の指示を体が拒否しているのではないかと思うほど、体は言うことをまったく聞かなかった。理由は何となく察しがついていた。今日は学校でグループワークの時間があったからだ。
中学から不登校で、ここ3年ほどまともに人と話してこなかった人間にとって、人と面と向かって話すことを強制される時間など、生き地獄でしかなかった。本当は通信制高校に通いたかったが、美緒の住むボロアパートにはそんな環境を支えられるほどのネット回線はなかった。スマホがかろうじてつながる程度だった。
重い腰を椅子に下ろした。机に肘をつき、携帯を見た。通知が3件来ていたが、すべて公式からのものだった。当たり前だった。学校の人間の連絡先など欲しいと思ったことすらないし、聞かれることもまずない。両親は離婚しており、母親だけに育てられた。その母親も謎の死を遂げてしまったため、親の連絡先もない。
「既読にする」というボタンをタップして通知を消した。買い物関連の通知なら安く購入できる可能性もあるため多少は目を通すのだが、今回は3件とも化粧品や音楽、アイドルに関するものばかりだった。美緒には縁のない世界だった。興味すら持てなかったし、これから先も持てる気はしなかった。
そろそろ夜の恒例行事の時間がやってくるので着替えることにした。通販で買ったなんちゃってのセーラー服のスカートを下ろす。スカートはハンガーに掛けるだけでいいのか、それとも専用の収納方法があるのか、それすらも知らなかった。
スカートは風でめくれやすく、動きづらい場面も多い。それなのになぜ学校はスカートを強制するのかという疑問も抱いていた。
着替えるといっても、ジャージに半ズボンという学校の体操服のような格好である。日光よりも月光に照らされている時間の方がはるかに長い人間なので、青白い肌があらわになった。人に見られるのは恥ずかしいが、深夜が行動時間なので見られることはほとんどない。動きやすいジャージが最適だった。
深夜2時30分。恒例行事の時間がやってきた。
恒例行事といっても、ただひたすら外を歩くだけの散歩だった。適当なスニーカーを履き、美緒は玄関を出た。
いつもより強い夜風が吹きつけ、美緒の長めの髪が左右になびく。髪が長い理由は、自分に似合う髪型がわからず、失敗して恥をかきたくないため美容室へ行けないからだった。このまま伸び続けたらどうしよう――そんなことを時々考えていた。




