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第11章ー4 エピローグ


「で? あのパトリシア様の謝罪は何だったんですの?」


 翌日、エグランティーヌの元に出勤するなりエグランティーヌに尋ねられる。ユイカは少したじろいだ。


 早速というか何というか、エラ様の未来の旦那様がすでに部屋で寛いでいらっしゃるのである。そんなユイカの困惑した視線を受け止めたアルベルトは明るく言い切った。


「私は何も聞いてないし見てもいないことにするから気にしないでくれたまえ」


 めちゃくちゃ上機嫌である。何なら羽が生えていそうである。


 浮かれたアルベルトの後ろに控えているカイに助けを求めるように視線を向けると、彼は苦笑しながらも、大丈夫だというように頷いてくれた。


「信用しますからね、殿下」


「腹心の部下の信用を裏切るほど、私は愚かではない」


 その言葉を信じながらも信じ切れず、王太子殿下のたくさんの耳と目がここにはひとつも無いことを二、三回確認してから、ユイカは事の次第を伝えた。


 ミナがパトリシアの役に立ちたい一心でユイカとエグランティーヌの発表の内容を聞いてパトリシアに伝えたこと。パトリシアも承知の上で同じ問題、同じ答えをぶつけたこと。けれど、本当の答えではなかったため、エグランティーヌの発表に影響はほぼ無かったが、二人ともひどく後悔していたことを。


「……パトリシア様も追い詰められていたんですの。私と同じように」


 エグランティーヌが呟く。


「私も、もしかしたら彼女と同じことをしていたかもしれません」


 そう言ってから、ユイカを見やった。


「でも、私には貴女が居てくれたから」


「……恐縮です」


 恥ずかしくて、でも嬉しくて、実は泣きそうになりながらユイカが答えると、アルベルトも小さく頷く。


「だからこそ、君たちの提案した『目先の利益に囚われずに職員を教育することで生まれる誰も取りこぼされない職場』が彼女たちを救うことになるのだと思うよ」


「そうなったら……良いですね」


 ユイカは頷く。


「そうなるように、努力するのが私たちの役目ですわよね、殿下?」


 紅い瞳が金色の瞳を見つめる。


「そうだな」


 アルベルトの力強い意思のこもった返答に、ユイカは幸せな未来を思い描くのだった。


・・・*・・・*・・・*・・・*・・・



 そして王太子妃選定最終試験から7年後。


「アメリア様! ようこそおいでくださいした!」


 現国王夫妻の強い希望により、大幅に早められたアルベルトの即位式を前に、ユイカが主席女官を務める貴賓宮は大忙しだった。


「ユイカ様! 約束通り来たわ。全然変わらないのね貴女」


 嬉しそうに目を細めている、元貴賓宮主席女官アメリアの視線が、ユイカの左手の薬指にはめられているリングで止まった。


「そうだ、遅くなったけれどご結婚おめでとう!」


「ありがとうございます!」


 アメリアは感慨深げに目を閉じる。


「この王宮は……既婚者になっても女官を続けられる環境になったのね、大変だったでしょう?」


 ユイカは苦笑する。


「はい、とっっっっっても! でも、王太子妃殿下の超強力な後押しがありまして、まずはこの貴賓宮から、ということで、私たちがまずやってみて成功例を出しなさい、と」


「一度退職してもそれまでの職歴を考慮して復職できるようになったとも聞いているわ」


「そうなんです。だから信頼できる先輩がたくさんいらっしゃって、新人さんたちも遠慮なく助けてもらえるし、無理なく協力できるから、すごく良くなったと思います」


 アメリアは、本当に嬉しそうに微笑んでユイカの手を取る。


「アルベルト陛下の治世も楽しみね、どんどん、この国は変わっていくのでしょうね」


「はい。きっと……」




・・・*・・・*・・・*・・・*・・・



 アメリア夫妻を部屋に案内し終えた頃、ユイカはミナに声を掛けられた。


「主席女官、探しましたよ~!」


「ダメですよ、ミナ様、走っては!」


 お腹の大きなミナが、これくらい大丈夫だって、と苦笑する。


「だって二回目だよ? ポンっと生んでまた戻ってくるから!」


 明るく言って笑ってから、腰に手を当ててユイカを軽く睨みつける素振りを見せる。


「それよりも、旦那さんが待ってたよ。貴賓宮はこれからの女官たちのモデルになる働き方をしなさい、って言われてるでしょう? 早出の人はもうすぐ定時だよ、早く帰らなきゃ」


「え? もうそんな時間?」


「そうだよ! ユイカ様ってば、放っておいたらいつまでも定時が来たの気づかないんだから」


「あはは、いつもありがとう! おかげで最近は時間通りに終わることができてるよ。じゃあ、今日も、後はお願いしてもいい?」


 任せといて、という力強い言葉を受けて、ユイカは慌てて職員用出口に向かう。


 フロアメイドのエマがたくさんの後輩に対しててきぱきと要領よく簡潔に指導しているのが見えた。いつも人手が足りない部署の代表格だったエマの部署はいつの間にか大所帯になっていた。


『あぁ、ユイカ様たちに『人手が欲しい』なんて愚痴らなければよかったです。新人教育が難しすぎて……』


 項垂れるエマにユイカは言ったのだ。


『大丈夫! エマ様のあの仕事に対する矜持を見せつけたらきっと後輩はついてくるよ!』


 心からの賛辞のつもりで言ったのに、エマには、嫌味ですか、と、ジト目で睨みつけられたのも今となっては良い思い出である。


(学園でも王宮ここでもたくさんの人たちと出会って……いっぱい助けてもらってるな……)


 ユイカは思い浮かぶたくさんの様々な顔に思いを馳せた。


 パトリシアは持ち前の頭脳で、貴族令嬢たちのややこしい家同士の問題や、令嬢同士の関係などの相関図を調べ上げ、うまく誘導し、本人たちにそうと感づかれることないままエグランティーヌの強力な支援者に育て上げた。もちろん今では、ご自分が筆頭の右腕である。


 リリアは史上最高の神力を扱える大聖女様とおなりあそばされ、相変わらずユイカを女神と崇め奉り、マイペースに周りを巻き込みながらもこのルミナス王国のために尽力している。


 他にもたくさんの友人となった人々のことを思い浮かべるだけで、ユイカの口角は自然と上がるのだった。



・・・*・・・*・・・*・・・*・・・



「お疲れ」


 カイが馬を連れて待っていてくれた。


「ごめんなさい、カイさん。遅くなった?」


「いや、今日は定時ぴったりだ。最近は時間通り終わることが多いな。少し前には『人には早く帰れって言うのに、主席女官はいつも退勤時間過ぎるんですよ』って新人が言ってたって、騎士団員が笑って話してるのを聞いたぞ?」


「あぁ……耳が痛い。でも、確かに仕事を誰にでも任せられるようになってきたから、すごく安心して働いていられるんだ」


「これも、君と王太子妃殿下たちの努力の結果だ」


 一番近くで見てくれていた人にそう言ってもらえることがとても嬉しい。


 カイがユイカの背中を軽く叩く。


「しかし、今日は本当に急がなきゃだな。王太子殿下と王太子妃殿下がせっかく俺たちの為に時間を作ってくださったんだから」


「そうだね。明日にはもうお二人とも国王陛下と王妃陛下だもんね~。信じられない」


「国王陛下が早く譲ってのんびりしたいって言ったらしい」


「なんだかんだ言って、殿下は頼みごとに弱いんだよね」


 くすくす笑いながら、ユイカはカイに手伝ってもらって馬に乗る。


「よし、急ぐぞ、ユイカ」


「うん!」


 背中にカイの温もりを感じて、夕暮れの道を家に戻る。一旦戻って着替えてから王城でアルベルトとエグランティーヌと彼らの愛息と双子の愛娘たちと七人で食事を摂るのだ。


(定時で終えた仕事帰りに旦那さんと待ち合わせて一緒に帰って、その後に友達家族と一緒にご飯……)


 ユイカは幸せをかみしめる。


(結衣。貴女の苦しみがあったからこそ、今のあたしの幸せがあるんだよ。『大丈夫』って強がって言っても助けてくれる人たちが、今のあたしにはいるんだ。だから、貴女とあたし……前の自分と今の自分で、幸せになろうね)


 ユイカは心の中の自分に語り掛け、それから夕日で照らされるルミナス王国の美しい町を眺めながら大切な人と共に家路につくのだった。



<了>

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!

無事、ユイカを定時退勤させてあげることができました。これもひとえに読んでくださった方々、リアクション、ブクマ、評価してくださった方々のおかげであります。


本当に本当にどうもありがとうございました!!


また何か別のお話でお目にかかれたら、とても嬉しく思います。

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