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公立小学校もの

公立小学校の暴力教師

滝沢博之は区立塩辛小学校の周りを散歩するとき、「みんな、友達」と大きく書いてあるのを見ると腹が立つ。


滝沢は40年前にこの学校を卒業した。


この地は緑が多い。


校舎は木造とプレハブ、鉄筋が混在し、渡り廊下があった。


校庭は割合に広く、舗装されてもいない。


彼は4年からの転校生で担任は井上高子、5年から栗林敏夫に交代したが、クラス替えはしていない。


弟は1年の途中から転入したのだが、聞いてみるとクラス替えは2年から3年の1回しかしていないという。


卒アルを見ると、旧担任と書いてあり、そこに井上高子の顔が写っている。


クラス替えは2年から3年だけで、5年で担任が変わるということになっていたことになる。


そこに怠慢暴力教師・栗林敏夫がいるとどうなるか?


栗林は児童のことを「お前ら」と呼び、児童が間違えると「馬鹿野郎!」と怒鳴りつける。


誰も答えなくなると、「お前らは普段は騒がしいのに、こういうときは静かだな」と嫌味を言う。


自分が「アメリカ」のことを「ソ連」「ソ連」と繰り返し間違え、それを児童に指摘されると狂ったように怒る、どうしようもない教師である。


栗林は体育の授業に出てこない。


体育の授業に出てこないのは、着替えるのが面倒だからとか、寒いから嫌だと言うだけの理由である。


児童がサッカーに熱中して給食の時間に戻ってこないと、「お前らに座って食う資格はない」と言って、立ったまま食べさせられたこともある。


また軍隊でよくやったように、両手を水平に伸ばさせ、15分以上そのままにしろというようなこともよくあった。


木の棒で頭を殴られたこともある。


だが体育の授業に全然出てこないのは、噂になり校長の耳に入るとまずい。


それで栗林は巧妙な偽装をした。


10回に1回くらい出てきて、走り高跳びを自分でやるのである。


それで130センチをクリアして、校舎の窓から見ている他のクラスの生徒にも目立つようにしていた。


滝沢は中学では140センチ飛んだことがある。


だから130センチなどそう大したことではないのだが、それで校長の目を欺いていた。


授業に出てこないのだから、自分では成績がつけられない。


ではどうやってつけるかと言うと、児童に聞くのである。


問題はリレーの選手の決め方である。


3年からクラス替えしていないのだから、山崎とか赤松とかいつも同じ名前が挙がる。


山崎が一番運動神経がいいとされ、当たっても痛くないボールが足に当たると気を失ったする。


みんなが「大丈夫か」と集まってくると、ズボンの裾をはらって立ち上がるという猿芝居をやっていた。


だが3年から伸びてきた中村の名前が上がらなかった。


中村は人望がなく、嫌っているものが多かった。


滝沢は転校生だから、なぜ中村に人望がないのか知らなかったが、父親が建築会社の社長で中村の顔には切り傷があり、喧嘩をよくする乱暴者だったからであろう。


徒競走で1位になり、山崎や赤松に勝った中村がリレーの選手に選ばれないという結果になった。


それを聞いた中村の父親が怒って、夜中に栗林に匿名の電話をかけた。


「どちら様ですか?」


「なぜ速いものをリレーの選手にしないのか?」


「リレーの選手は速ければいいというものではありません」


栗林は屁理屈を捏ねた。


実際には自分は授業に出てないし、誰が速いか児童に聞くだけだから知らないのである。


栗林は一番速い組の徒競走の結果を見て、リレーの選手に名前が上がっていても、負ければ落とすことはやっていた。


1位は中村、2位は山崎、3位は赤松、4位は高野、5位は滝沢となった。


リレーの選手は、山崎、赤松、滝沢に決まっていた。


栗林は滝沢の頭を小突き、「何だ、お前は?」と言って、リレーの選手から外し、高野と交代させた。


栗林は中村を毛嫌いし、リレーの選手に繰り上げなかった。


栗林はその電話の話をクラスの全員にした。


だがそれだけでは腹の虫が収まらなかったようだ。


当時は切手収集が流行っていた。


それを山崎が学校に持ってきて見せびらかした。


滝沢はこんな大事なものを学校に持ってくるのは馬鹿だと思った。


やはり切手帳がなくなるという事件が起きた。


それから奇妙なことが始まった。


放課後、栗林が中村を職員室に監禁しているらしいのである。


どうも盗んだと白状させているらしい。


「先生がみんなに言わないならいいます」


「言わないから言え」


「僕が盗みました」


栗林はその話をクラス全員の前で得意げに喋った。


「泣きながら逃げるように帰った」とも言った。


滝沢も最初はその話を信じたのだが、山崎に聞くと切手帳は返してもらってないという。


誰かが中村が盗んだところを見たわけでもない。


切手帳も戻ってないし、誰の証言もない。


栗林は中村を職員室に監禁して、「盗んだ」と白状させただけで証拠は何もない。


栗林は中村の父親が電話してきたことを根に持ち、盗みの自白を強要したのである。


栗林は滝沢たちの卒業後に3年の担任になったが、すぐに転勤を求める署名運動が起き、それは卒業生の親たちにも及んだ。


滝沢たちのときは、受験組の親が内申書をよく書いてもらおうと栗林をチヤホヤし、御歳暮さえ送っていた。


だから不満がある親でも黙っていたのである。


署名の山が校長のところに齎された。


栗林は署名の山を見て、転勤していった。


滝沢は今、転勤では甘い、あいつは体育の授業をしていなかったのだから、教育委員会に持ち込み懲戒処分をする事案だと思っている。


やがて滝沢は栗林が死んだと、母親から聞いた。


なぜ分かるのかと聞くと、情報通の別の親から聞いたという。


だが母親も鈍い。


死んだとわかるのは、定年前だからじゃないかというと「あ、そうか」と答えた。


警備員が見張りを立てるようになった。


滝沢はそれを無視しながら、その前を平然と通り過ぎていく。


枯れ葉が舞い散る季節になっていた。








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― 新着の感想 ―
この作品は栗林先生に焦点が当てられているように見えるが、たまに高跳びをしただけで騙される校長や、人望がないというだけで中村を嫌うクラスメート、特に暴力描写のなかった栗林に対して"暴力教師"のレッテルを…
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