【プロローグ】
「夜が明ける日、ヴァージンロードで。」の過去編です。
たぶん、あの頃の俺は「生きてる」ってより「持ちこたえてた」って方が正しかった。
雀荘のカウンターで、毎日タバコと汗の匂いに包まれながら、点棒を数えて、罵声を聞き流して、眠る場所と金を交換してた。
金はすぐ足りなくなる。
酒を飲まなくても、風呂に入らなくても、生きるには金がいる。
そして俺は、賭けに負けた。
借金は、大学生の俺にはどうにもならない額だった。
親に泣きつくほどのプライドもなければ、正社員で働く覚悟もない。
どうしようもなかった。
でも――
「仕方ないから、ウチで働けば?」
そう言って、金を肩代わりしてくれたのは、大学の先輩で、夜の街に生きるキャバ嬢だった。
彼女の職場。
店の名は、誰もが知ってるような派手なビルの5階。
鏡張りの廊下と、甘ったるい香水の匂い。
「お客さん第一、常に笑顔、ミスは即ペナルティ」
そんな、夢も希望も社畜精神も全部を歪ませたルールが支配する場所。
俺は、そこで**“ボーイ”として働くことになった。**
夜の仕事は、想像以上に冷たくて、想像以上に人間くさかった。
金、酒、プライド、嫉妬、嘘、嘘、嘘。
その中で、俺は「何者か」になれる気がしてた。
でも、たぶん――俺は最初から、壊れかけてたんだと思う。
これは、「夜明け」を知らないまま、
夜でどうにか生きようとした俺の、話。