大鳳が伝えた物④
大鳳が伝えた物④
「艦の状態はどうなっている?」
艦長の問いに士官が答えた。
「艦の損傷は軽微です。しかし、それ以上に、先ほどまで昼だったのが夜になっている事が問題かと思われます」
「まさか私が大鳳艦長を務めている時に、これが起こるとはな」と艦長は独りごち、長く息を吐き出した。
「はい。突然の昼夜の逆転は、それ以外に考えられません」士官も賛同し、艦橋の窓から見える深い夜空を確認した。
空母大鳳は先ほど宮城県の仙台付近を航行中、地震情報を入電した後、突然津波に煽られたのだった。
艦が波に持ち上げられ制御不能に陥る中、外が急に暗くなり、陸に打ち上げられてしまったのだ。
艦長はこの事態から、大鳳が1933年3月に流れ着いたと推測し、大戦後から更新され続けている手引書に従い、行動を開始する事にした。
1933年3月。三陸地震に伴う津波により、大きな被害が出ていた。
海軍艦艇も打ち上げられており、海軍に連絡がもたらされた。
現地に派遣された者達は、見たことも無い空母を目にする事になった。
乗員は健在なようで、事情聴取を行ったところ、俄かには信じられない話が出てきたのだった。
自分達は2011年の日本帝国海軍であり、ここが1933年である事は分かっていると述べた。
その証拠とばかりに、色の着いた活動写真を小さな板で見せられ、艦内にも招かれた。
格納庫にはプロペラのない航空機が並び、彼らが言うには音の速度を超える速さで飛ぶのだという。
彼らは、今後の日本にとって非常に重要な案件があると訴え、海軍上層部や内閣との面会を求めてきた。
調査員達は乗員の1人と共に海軍上層部の元へ赴き、報告を行った。
色の着いた活動写真が映る板を見せたところ話は大きくなり、内閣や日本の重鎮達と未来の日本海軍を名乗る者達との会談が行われる事になった。
まず、大鳳が既に3度過去に戻っており、今回が4度目である事。大鳳は過去に戻る度に日本に情報を伝え、日本の状況を改善してきた事が説明された。
次に、大鳳を見る限り時間遡行による矛盾が起きていない事から、初代大鳳から四代目大鳳の世界は1933年3月の時点で分岐しており、平行世界が創られていると推測されている事が解説された。
そして、初代大鳳から三代目大鳳がそれぞれ伝えた情報が開示され、特に三代目大鳳が伝えた情報を基に、自分達の世界の日本は非情な決断を下し、日本の置かれた状況を改善してきたと語った。
特に、制御不能になりかけていた軍の制御を取り戻したのが、日本にとって大きな一歩であったと訴えた。
内閣や軍上層部、国の重鎮達による議論は深まり、ついに非情な決断を下す結論へと至った。
まずはやはり軍の制御を取り戻すため、独断専行を行った軍人達の処分が行われる事になったのだった。
軍高官もいたため、十分な説得がなされ、処分が言い渡された。
近く、日本は連盟から正式に脱退する予定だったが、これを撤回するよう求められた。
常任理事国という立場を維持するため、大陸の利権をある程度手放す事が決まった。
この会談で今後の日本の進む道がおおよそ決められ、大鳳の乗員達は全面的に協力していくのだった。
来る戦乱に備え、軍縮条約からは脱退する事が決まった。
四代目大鳳は現在軍縮条約違反となるため秘匿隠蔽され、既に老朽化もしている事から解体するための建屋が建設されていった。
日本は連盟からの脱退を撤回し、満州国の市場を開放し日本の影響力を下げた。
さらに支那事変回避のため、中国内陸の租界を返還し、上海の日本租界をアメリカへ譲渡する事が決定した。
反発する者達から要人を護るため、警察に要人警護の部隊が組織され、五・一五事件のような事が起きても対応できるようにしていった。
相沢事件や二・二六事件は、事件が起きないように対処された。
今後は航空機の活躍が増える事から、航空兵は少数精鋭から一定練度に達した者達を多数揃える方針に転換していった。
大鳳の兵装や電装品は5代目大鳳に引き継がれる事になった。
しかし、誘導弾等は使ってしまえば補充が利かないため、現在の日本でも補充が利く兵装を中心に装備する事が決まった。
大鳳の格納庫内にあった航空機は、今の日本では再現できないジェット機ばかりであり、数回の運用は出来るかもしれないが、交換部品も製造できないため研究資料として扱われる事になった。
ジェット機の試験を行ったところ、本当に音の速度を超えて飛ぶ事が判り、立ち会った者達は驚嘆したのであった。
大鳳のもたらした情報を研究解析する機関が設立され、大鳳の資料室にあった電算機や紙の資料等は、全て運び出されそこに搬入された。
2011年までの技術情報が蓄積されており、来る戦乱の時代を乗り切れば、日本の飛躍は約束されたような物だった。
大鳳の乗員達は戸籍を与えられ、新たな身分を手に入れた。
当面は研究機関に協力しながら働き、新たな家庭を築いていった。
満州の油田の正確な位置が判っている事から、石油掘削が開始されていった。
日本勢力圏内の未開発鉱山の位置も判っている事から、金等の採掘が行われた。
新たな金鉱山等に関連して得られる資金で、日本の工業力の梃入れが行われる事になった。
発電所や道路、橋梁、港湾など生活基盤も整備され、大鳳の情報を基に最新の冶金技術を持つ製鉄所も建設されていく事になるのだった。
ラジオやテレビの普及による真空管の性能向上も進めつつ、現在の技術でも開発可能なパラメトロンを研究開発し、今の日本では困難であるがシリコン製のトランジスタ開発も進めていった。
さしあたり、パラメトロンを使用した電子計算機の開発が行われていくのだった。
科学技術・物理学などなど様々な分野の情報がもたらされており、特に核物理学は国防上優先される事になった。
医療の分野も情報は多岐にわたり、現在の技術で再現可能な物から取り入れていった。
兵器類に関しても、再現できる物が造られた。
特に航空機において、生産性・整備性・生存性の高い機体が選ばれ開発される事になった。
第二次世界大戦が始まる前にこの機体の量産体制を確立し、ポーランドで時間を稼げるように支援を行う事が決まった。
ジェットエンジンは現在の技術で製造可能な物を開発し、安定した性能のジェット戦闘機開発が目指された。
戦車については、四代目大鳳の世界の三式中戦車の早期開発を目指し、繋ぎとしてⅢ号戦車と戦える程度の中戦車や駆逐戦車を開発する事とした。
ソ連との国境紛争に間に合うように、生産性が高い戦車が求められた。
四代目大鳳の世界で活躍した千歳型水上機母艦と瑞雲を、大鳳がもたらした設計図を基に造る事にした。
通商破壊を行う潜水艦や巡洋艦に対して、瑞雲が有効であると考えられた。
第二次世界大戦の戦略としては、ポーランドへ侵攻したドイツを英仏と共に逸早く叩き、ソ連の拡大を抑制し戦争の被害を最小限に抑える方針になった。
大鳳がもたらした情報があれば、たった6年でも間に合いそうであった。
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IFルート1。1611年12月。慶長三陸地震に伴う津波で大鳳が打ち上げられる。大鳳の技術を取り込んだ江戸幕府は、高度な科学技術と独特の江戸文化を併せ持つ日本を作り上げた。外敵を寄せ付けず、欧米ではオランダ以外とは貿易をしない特殊な国として知られ、21世紀を向かえている。終わらない江戸時代。
IFルート2。1896年6月。明治三陸地震に伴う津波により大鳳は打ち上げられる。「2011年から来ました。ここが1933年という事は分っています」「…今は1896年ですが?」「え?!」「1896年です」「マジか…」大鳳がもたらした技術により、日本は急成長。日露戦争大勝利。世界大戦に早期に参戦し、早期に戦争を終結させる。アメリカ経済成長遅れる。日本は発展を続けていき、経済大国へ。降りかかる火の粉は払いのける、無双する日本。




