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呪われ少女  作者: medai
第1章 運命を呪う少女
6/8

005 束の間の休息と絶望

フェリアが目覚めた瞬間、声が聞こえてくる。


「……!よかった、目が覚めましたか?」


(きれいな声だなぁ……)


 そう思ったフェリアだが、口には出さない。体をスッと起こしたフェリアは立ち上がり、フローラの手を取った。


「ありがとね、フローラ。このままここにいると危ないから、とりあえず動こう」


「はい!」


 足音を立てないように慎重に動き出すフェリアたち。フェリアの体感で10分ほど歩いていくと、1つの扉を見つけた。出口がどこかもわからないフェリアたちは、とりあえずその部屋に入ることにした。


 鍵は一切かかっておらず、扉は簡単に開く。中は小さく、1つの机と椅子、ベッドが置いてある。机の上には紙束が置いてあり、ベッドには紙に包まれた食べかけのパンがあった。


「とりあえず……あの紙に何が書いてあるか見てみようか」


 フェリアたちは紙に書いてあったことを読み込んでいく。”呪いの指輪”に関して。そう書かれた文章の中には、いくつか気になる箇所があった。


「——————呪いの指輪を付けたものは、攻撃力・防御力・体力が半分になる。」


「ということは、私のステータスも低下しているんですね……」


「ちょっと見てみようか。リサーチ」


フローラ・ジーン

体力:86

攻撃力:97

防御力:87

魔力:129


(数値としてはごく一般的…私と違って魔力の部分が変になってたりもしないし。それよりも)


「フローラの名字って、”ジーン”っていうんだね」


「へっ?あ、そういえば伝えてませんでしたね。では改めまして、私はフローラ・ジーンです!フェリアさん、よろしくお願いします」


「よろしくねフローラ!でもほとんど同い年なんだから、フェリア”さん”とかそういう堅苦しいのはやめてほしいんだけどなぁ」


「フェリアさんがそういうなら……”フェリア”でどうでしょう?」


「もちろん!なんならあだ名で呼んでもいいんだよ?フェリィとか」


「そういうのは……まだ恥ずかしいですよ」


(可愛らしいな、この子は)


 フェリアはそう思いながら、資料を読み進めていく。他にわかったことは、”呪いの指輪は外せない” ”痛覚が増す” ”中立的な魔物が襲ってくる” ”呪いの指輪の力の大半は、指輪に付けられた黒い宝石に込められている” ”指輪のついている箇所は傷つけられると再生する” ”他とは違う特殊な指輪がわずかに存在し、それらは全てストーリア王国跡の遺跡から発掘されている” ということだ。


(あの実験はそれを確認するためのものだったんだ)


(ていうか外せないってそんな……予想はしてたけどさ)


様々な考えが頭に浮かぶが、フェリアにはその中でも大きく気になる箇所があった。


(ストーリア王国って、師匠の出身地だよね…?)


 フェリアの師匠であるセリスは、他の種族より圧倒的に長寿な”エルフ”であり、500年ほど前に消滅したストーリア王国の出身であった。


(色々聞きたいけど、まずはここを出なくちゃ)


そう思っていると、フローラが話しかけてきた。


「黒い宝石って言うと、私のこの首輪にも」


「確かに、私のにもついてた。でも私のやつは外れたよね?じゃあ”外せない”っていうのは指輪自体の効果なのかな。ああ、それはそれとして外さなきゃね。そこまで頭が回ってなかった。ごめんね」


「謝らないでください!大丈夫ですから。私は守っていただいているんですし」


そう話した後、フェリアは思考する。


(音のならない、破壊効果の高い魔法?じゃあ……あれかな)


「動かないでね。スペクトルハンマー」


 召喚魔術”スペクトルハンマー”を使うと、手のひらサイズのハンマーが召喚される。それはフローラの周りに漂いながら、首輪を破壊していく。首輪は静かに粉々になり、床に落ちる。ジャラジャラと少し音が響いたが、気にするほどではないだろう。


「ありがとうございます、フェリア」


「いいんだよ!フローラのおかげでなんとか精神保ってるし。それより、私にリサーチを使ってくれる?」


「……?わかりました。リサーチ」


フェリア・スコット

体力:668 

攻撃力:877

防御力:1129

魔力:8121


「魔力が8121なんて……!すごいですねフェリア!」


やや興奮気味でフローラはフェリアにそう言う。しかしフェリアが見てほしいのはそこではない。


「ありがとね。えーっと、おかしいところとかはない?数値じゃなくて文字が書いてあったりとか」


「何もおかしいところはありませんよ?」


「そっか、ならいいんだけど」


 フローラは困惑気味に首を傾げたが、この状況だ。何か起きてないかちょっと確認したかったんだろうと1人で納得した。しかしフェリアの頭には疑問がどんどん浮かんでくる。


(あれは私にしか見えないの?何を求めるってどういうことなの?ああもう何もわかんない!)


そんなやり取りをしていると、随分と離れた所から怒声が聞こえてくる。


「お前!ふざけるなよ!お前が大丈夫だと言ったから首輪を外したんだ!」


「予想外だったんですよ。私にも”予想外”だったんです」


レリアルが目覚めたのだろう。ガイルが怒鳴られている。


「ああもう面倒くさいな!なんでもいいから早く見つけてこい!今すぐ!」


「わかりましたよ」


それを聞いたフェリアたちは覚悟を決める。深呼吸をして、扉に手をかける。


「ここにいてもいずれ見つかるからね。私の魔力もあんまり回復してないし。早く行こう」


「はいっ」


 扉を開けると、L字に広がっている廊下。先ほど通ってきた道ではなく、まだ行ったことのない方へと進んでいく。足音と息を殺し、ゆっくり慎重に進んでいく。しばらく道沿いに歩いていたフェリアたちは、後方から足音が近づいてくることに気づいた。


(見つかってはいないはず。大丈夫。大丈夫)


 自分にそう言い聞かせたフェリアは、フローラの手を握る力を少し強める。フローラは痛くて顔をしかめたが、自分もフェリアの手を強く握る。少し歩くスピードを早めたフェリアたちは、T字路に出た。


 T字路の右側に進んだフェリアたちは、進んだところにまたもや扉があることに気づく。他に進む道はない。流れるように扉を開ける。中は真っ暗だったが、扉を開けた途端、廊下に悪臭が広がってきた。ただでさえ神経質になるような状況なのに、そのような臭いを嗅いでしまうと、正直今にでも吐きたい気分になる。


 フェリアたちは悪臭になんとか耐えながら部屋に入る。「ネチャッ」と音がなるが、気にせず部屋を照らすために魔術を使う。


「フレア」


 炎魔術”フレア”を使って部屋を照らすと、そこには大量の骨と、死んだのは最近であろう腐った肉体が散らばっていた。どれも子供、それもフェリアやフローラと変わらない年齢の人間のものであり、それらはフェリアたちの足元にまで広がっていた。


いくら死体に慣れていてもおぞましく思える光景に、2人が耐えられるはずもなく。


「オエェェッ゙」


「なに、これ…?」


「これ、全部、死体ですか?」


「たぶ、ん」


「実験に、うっ、使われた子どもの死体ってことですか…?こんなのひどい…!」


「オエエッ、さすがにっ、来るなぁ、これは」


 フェリアはあまりの光景に床から目を背けると、奥に扉があることに気づく。フローラの目を自身の手で覆いながら、手を引き扉まで進んでいく。


 ドアノブに手をかけ、今すぐにこの部屋から脱出したい気持ちで思いっきり扉を開けようとする。しかし、鍵がかかっているようで扉は開かない。


「どうしよう…戻るしか無いかな」


 部屋の入口に戻ろうとするフェリア。しかしそこで、部屋の外からペースの早い足音が近づいてきた。その足音はどんどんと大きくなっていき、こちらに近づいてくる。


(気づかれた?音はそんなになってないはず!まさか、この臭いで!)


「フローラ、今すぐ扉の横に近づいて。扉が開いたらそこに隠れつつ、タイミングを見計らって出て」


「急にどういうことですか?」


「良いから早く!」


何もわからないが、フェリアの言う通り扉の真横にピッタリと張り付くフローラ。


 足音はすぐそこだ。今にでも扉を開けてくるだろう。フェリアは扉のある所から一番遠い角で、魔術を用意する。使う魔術は雷魔術”ライトニングランス”。魔力を形作り、あとは詠唱を行うだけだ。


 フェリアの手はブルブルと震えている。ステータスは完全に負けている。頼れるのは自分の魔術だけだが、謎の症状でうまく使えない。


(勝てなくても、時間さえ稼げれば…!)


 そう思った瞬間、部屋の入口にある扉が()()()()()。とっさにフェリアは叫ぶ。


「ライトニングランス!」


 雷でできた槍は、扉の前に立っているガイルに命中する直前に避けられる。やはり詠唱の隙というのは大きいものだ。横にステップを踏んだガイルは部屋に入り、杖を使って血液魔術”ブラッドスパイク”を連射してくる。


(魔力の消費を考えると、”シールド”はあまり使いたくない。それならこうだ!)


「カウンタースペル!」


 終魔術”カウンタースペル”は、相手が魔術を使っている時に使うと、相手の魔力形成を妨害することができる。すでに発射されているものは止められないが、少しの間魔術を放てなくさせられる。この魔術はかなり難易度が高く、使えるものはほとんどいない。しかしフェリアは天才だ。使えない訳が無い。


「いったいなぁぁぁもおお!」


 放たれた血の棘を自身の体に刺しながらガイルへと接近していくフェリア。ガイルがなにか次の行動を起こす前にフェリアは魔術を放つ。


「ルート!」


 ガイルの脚に根が絡み始め、動きを制限する。ガイルがそれに気を取られた瞬間、フェリアはガイルに飛びつき、抑え込む。その隙に叫ぶ。


「はやく逃げて!」


「待ってください!フェリアはどうするんですか!?」


「後から行くから安心して!大丈夫、魔術勝負には負けられないから!」


 自分に少しでも力があったら。そう思った彼女だったが、今は何もできない。悔しそうな顔でそのまま走り去るフローラ。


(これで安心)


 そう思った瞬間、ガイルは腕を大きく振るってフェリアを吹き飛ばす。ガイルが根を魔術で燃やしたのと同時に、フェリアはうまく床に着地し、魔術を放っていく。


「ブライト!」


 自然魔術”ブライト”は、周囲の目標の防御力と攻撃力を減少させる魔術。魔力があまり残っていないフェリアは、ガイルのステータスを下げ近接戦闘に持っていくことにした。


「はぁぁぁ!」


 ガイルに接近し、拳を振るうフェリア。ガイルはそれを杖で受け流し、そのまま杖先をフェリアに向ける。そこから放たれるのは赤色の光線。


 血液魔術”サイフォンレイ”を直に受けてしまったフェリア。その魔法に一切の衝撃はないが、そこには威力がある。脇腹がえぐれ、そこから血が大量に流れ出すフェリア。


「ぐぁぁぁぁぁぁあ!」


死体の山に倒れ、意識を失いかける。


(死にたくない死にたくない!ああああああもう!)


「マジックアロー!」


 少ない魔力を捻り出し、魔法エネルギーでできた矢を射出する。その矢は障害物を()()するものであり、同じ魔法エネルギーでのみ防ぐことができる。


それに対しガイルはすぐさま体を捻り、右肩が抉れながらも致命傷を回避した。


「しぶといっての!」


「それはあなただ」


 本来もう気絶しているような状態であるフェリアは、気力だけでそこに立っている。だが、もう魔力を1でも使ってしまったら意識が飛んでしまうだろう。


それを察してか、ガイルはニヤリと口角を上げて話しかけてくる。


「フェリア・スコット。知っていますか?出口はあなたの後ろの扉の奥にあるんですよ。今頃あの少女は捕まっているんじゃないでしょうか。脱走した人間にはどんな仕打ちがあるんでしょうね?」


フェリアは拳を強く握る。


「いやはやあの貴族は悪趣味だ。こんな部屋を経由するはずがないって、普通の感性を持つ人間はそう思ってしまいますよね」


ガイルが次に何かを口走ろうとした瞬間、フェリアはガイルに向かって走り、殴りかかる。


「うぁぁぁぁぁぁぁ!!」


ガイルはそれを軽々と吹き飛ばし、話を続ける。


「あなたも脱走した以上、罰を受けてもらわなくちゃいけません。そうですね、純粋に体罰と行きましょうか」


床に突っ伏したフェリアの腹部を、ガイルは蹴り始める。口から透明な液体を吐き出しながら呻くフェリア。


「うがっ、がふっ」


ガイルはそんな彼女を見て嘲笑う。


「ハッハッハッ!いい気味だ!あなたのような才能のある人間が無力に!こうやって!ただ無意味に!蹴られ続けるなんて!可哀想ですな!」


「ライトニング、ボㇵッ」


「健気に魔術なんて使おうとして。無駄なことを。そんなに助かりたいんですか?」


(違う。私は助かりたいんじゃない)


「イライラするんですよ。私より年齢が低くて、なのに私より圧倒的に魔術師として成熟していて」


(フローラが待ってるんだ……)


「しかもその才能を冒険に使うなんて!ああイライラするなクソが!」


(フローラのために行かなきゃいけないんだ!)


「マグマボムっ!」


「無駄だって言っているだろ!」


「がはっ」


 フェリアの放った魔術は小さな、本当に小さな爆発を起こしたが、ガイルはまるで意に介さない。もうほとんど目の前が見えていないフェリア。しかしまだ、執念とも言える気合で、意識を保ち続けている。しかし、もう魔力はない。空っぽなのだ。血の気も引いてきた。


(あぁ、やばいなぁ)


「本当にしぶといですね。なんで諦めないんですか?」


 蹴るのすら面倒くさくなってきたガイルは、頭を踏みつけようとする。抵抗する力はもう、残っていない。


(もう、だめだぁ……)



















 

 


 

















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