弁当の中の兎
キャラ弁なんて大嫌い!
食べられればいいじゃない。
美味しければいいじゃない。
彩り良ければいいじゃない。
栄養あるならいいじゃない。
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冷蔵庫から取り出した紅い球体を片手に持つ。
左手に持った包丁の刃を宛てがい、皮を剥く。
慎重に、刃を滑らせて。
そうして出来上がったのは、滑稽なくらい左右で耳の長さの異なる兎。
料理歴ウン年、不器用にも程がある。
キャラ弁なんて夢のまた夢。
林檎の飾り切りさえ儘ならない。
時間が掛かり過ぎると表面が変色してくるから、慌ててボールに張った酢水に浸けた。
「おかあさん、おべんとうおいしかったよ!」
「良かったね。食べてくれて有り難う。兎さんがいたの、分かった?」
「えーうさぎさん? わかんなかったー」
所詮そんなもの。
作る側の自己満足。
「林檎まだあるけど、食べる?」
「うん、たべる!」
兎になれなかった一口大の林檎達。
ぱくぱく美味しそうに食べる我が子はとても幸せそう。
いつか、昔お母さんがお弁当に入れてくれていたみたいに、兎と気付いてもらえる林檎を入れてあげられるだろうか。
この子が大人になったとき、お弁当の中にいた兎の林檎を懐かしんで、思い出してくれるように。
今はまだ、この子にとってはただの林檎が、いつかちゃんと兎の姿に見えますように。
兎さんになれますように。
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ぴょん!()_()!