砂漠のちりとり
涼しい砂漠。それが私の人生である。
順風満帆と言えずともそこに嵐はない。雨も降らない。風もそろそろ。だから砂が舞うこともない。
背もたれ椅子によっかかって本を読むのにこれほど素敵な世界はないはずだ。
遠近法の乱れた世界では、どのくらい遠くかも分からないが、向こうにはアラビアな街がある。
そこに向かって歩くこともあるけれど辿り着くことはないと知っている。歩くのは健康のためで、デスティネーションへの経路ではないのだ。
無味乾燥の幸せだ。激動はない。波乱もない。あるのは夜空の星と快適な気温だ。
本を持てばこれほどいい場所はない。
私は幸せ者なのだ。
たまに落ちてる他人の嘆きを拾ってみれば、やれ貧乏だの、やれブサイクだの。自分のことを卑下するばかり。それならまだいい。もっと悪いのは世界を呪うやつだ。
貧乏人も不細工も、この世に存在する弱者は殺されて然るべきだと思う。
世界を公平だと思って自分の境遇を嘆き、ルサンチマンを解消しようとアリもしない偶像を呪う。
あぁ見るにたえない。
殺されて然るべきだ。
そんな殺意に形はない。ナイフの形も、機関銃の形もない。慈悲深い十字架の短剣でもない。強いて言うならばちりとりだ。
ただ見てみればこの砂漠。この砂漠全ての砂を掃くことなんてできはしない。
だから本を読んで無視するのだ。
孤独に苛まれても、自分は幸せだと無味乾燥に覚える。