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邪神、メイドを看病する

「邪神様、どうも領地内でアンデッドが増えているようです」


 ファムリアが見回ったところによると、各地でスケルトンなどのアンデッドが増えているようだ。

 私はアンデッドなどという下等な存在に興味がないので、その概要をほとんど知らなかった。

 ファムリアの話によれば、アンデッドは生物の死後に誕生するものだという。

 それもこの世に未練を残すほどアンデッド化する確率が高い。つまりこの領地内で死んだ生物は未練を残しているものが多いということだ。

 私は昼食をとりながら、対策を考えた。アンデッドを駆逐するだけならば容易いが、根本の原因を取り除く必要がある。


「テオ様、パンケーキが焼けたわ!」

「エリシィ。なんだ、それは?」

「甘くてふわっとしてゆーんってなる食べ物です! さ! さ! 食べておいしいって言って!」

「ふむ、美味だ」


 よくわからん説明だが、これは確かに甘くて口心地がいい。

 復興が進んだおかげで、こういったものを口にできるようになったのは喜ばしいことだ。

 次に運ばれてきたのはファムリアのパンケーキだが――


「苦みが強い。この黒々としたものが実に不快だ」

「あーわわわ! 申し訳ありません、邪神様ァ!」

「焦げてるじゃない、ファムリアさん。これじゃ右腕として失格ね」


 エリシィの指摘通り、ファムリアが作ったこのパンケーキとやらは質が低い。

 だがこの焦げも慣れてしまえば、それなりにいいものかもしれん。

 少しばかり苦みが強いのが欠点かもしれんがな。


「く、悔しいよぉ! 邪神様! あの女になんとか言ってくださいっ!」

「そんなものよりアンデッド対策の案が思い浮かんだ。原因の一つは領地内に巣くう害虫のせいだろう」

「へ? 例の盗賊ですか?」

「そうだ。よってこれから盗賊どもを駆逐する。ウテナ、留守は頼んだぞ」


 私が呼びつけたウテナはこの家に仕えているメイドだ。

 私が生まれ落ちる前にやってきた時には十代だというから、年齢はおそらく二十代の後半だろう。

 両親が生きていた頃から家事全般を担っているので、なかなか使える人間だ。


「は、はい。お気をつけて……」

「おい、貴様。顔色が優れんな」

「そんなことは……」


 倒れかけたウテナを支えると、どうも呼吸が荒々しい。

 粒になった汗が顔の表面についていることから、間違いなく正常な状態ではないだろう。

 たかが病であれば私の波動でどうにかできる。


「フン、病なんぞに負けおって。今、消してやったぞ」

「あ、ありがとうございます……。楽に、なりました……」

「まだ状況はあまり変わらんな。さては貴様、体そのものが弱っているな?」

「だい、じょうぶ、です……」


 ふらつきながらも立つが、やはり安定しないようだ。

 この屋敷にいるメイドはこいつのみだ。両親の話によれば、昔はもっといたようだが。

 大方、脆弱な人間の身でありながら休まずに動き続けたせいだろう。


「貴様は己の状態を私に報告せずに動いたな」

「す、すみません!」

「実に愚かだ。このような貧弱な身で動き続ければどうなるか、わからぬはずはないだろう」

「大変申し訳ありません……。恩義あるテオ様のお父様とお母様が住まわれたこの屋敷を、なんとしてでも守りたくて……」


 確かに放置しておけば人間の住居など簡単に朽ちる。

 そういう意味ではこのウテナの意図はわからんでもない。しかしこいつは己の力量を見誤った。それが今のこの状況だ。


「貴様ごときが思いあがるな」

「す、すみま……せん……」

「貴様が一人でこの屋敷を守るだと? そんな大役、その貧弱な身で簡単に果たせるはずがない。まずは己を知れ。そして力を積み上げろ」

「え……?」

「その体を休ませろ。貴様のような弱者でも、生きてもらわねば都合が悪い。貴様はこの屋敷に必要なのだからな」


 ウテナの目に涙が溢れた。感情が決壊したようだ。

 心では尽くしたい一方で、体は限界を迎えていたわけだ。

 心と体が必ずしも一致しないなど、私はすでに経験している。両親が死んだあの日、私が涙したようにな。

 あれは私の身体がそうさせたのではなく、心が泣いていたのだろう。


「お、おこころづかい、感謝、しますっ……!」

「貴様のような弱い人間にも気を配るべきだった。これは一つの反省点としよう。私がベッドへ連れていく」

「そんな、いいです。私、自分で」

「黙れ。弱者は弱者らしく、すがりつけ。そして万全の状態になった時、また力を積み上げればいい」


 ウテナを両手で抱えてから部屋のベッドに運んだ。

 寝かせた後は布団をかけて、後は水なども用意すべきか。

 両親の看病とやらを見様見真似でやってみたものだが、あの経験もあながちバカにはできんものだ。

 汗を拭いてやると、ウテナの表情が幾分か和らいだように見えた。


「テオ様、ありがとうございます……。お二人が亡くなった後、私がテオ様を支えてあげなければなどと思いあがってました……。すみませんでした……」

「弱者なりに考えた末の行動だろう。今は黙って体を休ませろ。私もしばらく害虫駆逐は保留とする」


 私がそう言い終えると、ウテナは眠りについたようだ。

 これだけでは看病として不十分と言える。人間の身体を万全な状態にするには栄養が必要不可欠だ。

 食事はなぜか部屋を覗いているあいつらに命じるとしよう。


「おい、そこの貴様ら。ウテナが目覚めた時のために、何か栄養がある食事を用意しておけ」

「え、えー? ボク達がですか?」

「貴様ら以外に誰がいる?」

「それはいいんですけどぉ。その、僕もその女みたいに抱っこしてほしいなぁって、思ったり……」


 こいつは何を言っているのだ?

 私に何かをねだるなど、かつてのこいつからは考えられん。いつでも私に絶対服従して、すべて従ってきたはずだ。

 だが私もまた学ぶべきことが多いのかもしれん。心とやらが体を動かす以上、欲望を満たしてやるのも重要だろう。


「成果次第では考えてやろう」

「ホントですかー!? やったー!」

「ファムリアさんじゃ無理よ! テオ様! 私も抱っこしてくださいね!」


 騒々しい連中だ。しかし、これで成果を上げるのであれば安いものだな。

 抱っことやらにどのような魅力を感じているのか、さっぱりわからぬ。

 エリシィのような人間がわからぬのは当然だが、ファムリアまでどうしてしまったのか。

 まだまだこの世界にはわからぬことが溢れかえっているとでもいうのか?

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