邪神、山を消し飛ばす
田畑の拡張に伴い、私はスケルトンどもを動員した。広い田畑を大量のスケルトンが耕しており、人間どもは最初こそ怯えていたが――
「おっと! 鎖骨が折れ散ったなぁ! 作業も進んでなけりゃ、これが骨折り損のくたびれ儲けってね! ハハハハッ!」
「ハハハッ! あんた面白いねぇ!」
意気投合したようであれば、私から言うことは何もない。
人間の適応力というものは素晴らしいな。今ではオークやスケルトンと共に仕事をこなしているのだから。
おかげで食の確保と共に、この領地はスケルトンという防衛時における貴重な戦力を手に入れたのだ。
ファムリアによれば奴らは基本的に不死身で、滅するには特殊な手段しかないと言う。
休息や食事も必要とせず、夜通しの作業だろうが奴らは淡々とこなす。
「邪神様、あいつらなかなか使えますねぇ。戦闘訓練なんかもさせてるんですか?」
「訓練というものはわからないが、ひとまず周辺の魔物討伐をさせている。おかげで今はあの大トカゲも楽に始末できるようになったようだな」
「へぇぇ? そんなに早く強くなるものですか?」
「死ぬ気で挑み続けただけのことだ。生前と違って死ぬことがない」
不死身であれば、その強みを活かさねば話にならん。致命傷がなくなれば、何度でも挑戦することができる。
しかもこいつらの凄まじいところは行動に対する意欲だ。寝ることも休むことも必要としないせいか、どんな仕事でも進んでやりたがる。
これほどの意欲を無駄にするのはもったいない。
そこで考えたのが通り道の整備だ。この領地は森や山々、川が多い。
ファムリアやエリシィによれば、領地を発展させるなら外から人間を呼び込むことも重要のようだ。
先日の商人とやらのように鼻が利く人間でなければ、この領地にやってくる物好きなどいないというのはもっともな意見だった。
さすがは私の優秀な手下だ。褒めてやるついでに、後ほど抱っことやらをしてやることにしよう。
翌日から私はさっそくオーガやスケルトン、町の領民に通り道の整備を行うことを宣言した。
当然だが労働の対価は支払う。盗賊どもが溜め込んでいた物品のおかげで私の資産も潤ったところだ。
希望する人間を募り、各道の整備に取りかかった。だが初めてみればさっそく障害が立ちはだかる。
「邪神様。あの山を越えるにはかなーり迂回しないといけませんよ。山が高すぎます。これさえなければ隣の領地まで開通しやすいんですけどね」
「それは面倒だな。工事とやらが長引くのは好ましくない」
ファムリアが上空から地形を把握しているおかげで工事の計画を立てやすい。
少し考えた後、私は現地に赴いた。報告の通り、障害は木々や岩だけではない。
急斜面や断崖絶壁などが目立ち、もはや山そのものが障害となっていた。
ならばやることは一つ、山に向けて私は波動を放つ。
「カタストロフ」
「じゃ、邪神様ァ!?」
破壊の波動で山の一部が消し飛んだ。削られた山肌は平面となり、実に通行がしやすいように見える。
ここを労働者どもに整備させれば立派な道となるはずだ。
「こ、これテオ様がやったのか!?」
「すごい! これほどのお力を持っていたとは!」
「テオ様に恥ずかしい姿は見せられん! 工事に取りかかるぞ!」
労働者どもが道の整備を始めたのを見届けて、私はまた一つ思案した。
ファムリアの報告によれば、この領地には盗賊以外に魔物がいる。
それも大トカゲのような下等生物ではなく、そこそこのものが各地にいるという。
邪神であった私が没した後、大人しくしていたものが暴れ出したとのことだ。
本来であればそんな小物は後に回しておけばいいのだが、この領地には私が住む町以外にも町や村などがある。
小物がそれらに何かしないとも限らないとなれば、あまり捨て置くわけにはいかん。
工事の様子を眺めながら、私はファムリアから報告を聞くことにした。
「ファムリア。小物の始末はお前に任せているが、どうなっている?」
「数匹ほど始末したんですけどね。ちょーっと手に負えないものがいくつかあるんですよ。あ、強さとかじゃないんですよ。隠れるのがうまかったり、居場所が厄介なところだったりするんです」
「数匹も始末できればお前にしては上出来だ。では残りの小物を教えろ」
「はい。まずですね……」
ファムリアが報告したものは二つ。
火山に潜む火竜が引き起こす噴火に怯える町。二つの種族が耐えず争う地、これには魔物の影があるという。
しかしファムリアの波動感知をもってしても、なかなか尻尾を掴めないようだ。
「この領地内に竜がいるとはな」
「最強種だか知りませんけど、邪神様のお膝元で身の程知らずなものですよ」
できることなら手下に加えたいものだ。魔空城では何匹か飼っていたが、あれはなかなか使える。
昼時になり、労働者達が昼食を食べ始めた。我々の昼食はエレシィが用意したそうだ。
早朝から起きて作ったということだが、その量が圧巻だった。箱が五重になっており、肉や野菜がきっしりと詰まっている。
「エレシィ。これは誰が食することを想定としている?」
「私が腕によりをかけて作ったの! テオ様、あーん!」
「なんの真似だ?」
「食べてっ!」
エレシィがフォークに刺したものを私に差し出す。抱っこの次はあーんなる遊びか。
こんなもので満足するのであれば安いものだが、相変わらず主旨がわからぬ。これの何が面白いのだ?
「こ、この女ぁ! 邪神様! あーん!」
「待て、ファムリア。まさか貴様もか?」
「あーんしたいんです! お願いしますぅ!」
「仕方ないな」
ファムリアとエレシィ、交互にあーんなる遊びに付き合わなければいけなくなった。
思いの他、疲れるものだな。
「おいしいですか? なんたって私も作ったんですから!」
「ファムリアさんは味見しただけでしょ……。何か作らせたら闇の物質が出来上がるものだから、危なっかしくて任せられないもの」
「味見もしないで、ひどい言い草だなぁ!」
「あんなもの食べられるわけないでしょ! キッチンにいた黒い虫が臭いだけで即死したのよ!」
闇の物質とは興味深い。ファムリアにそのようなものが作れるとはな。
なかなかの殺傷力があるようで、有用な物である可能性がある。もしそうであれば褒めてやろう。
さすがは私の右腕、後で存分に抱っこしてやってもいい。
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