邪神、盗賊どもを皆殺しにする
以前からファムリアが突き止めていた盗賊の巣は山の奥深いところであった。
盗賊という立場のせいで表立って生活するわけにはいかず、山の中に隠れては道行く人間や村を襲っているそうだ。
なんとも小賢しく情けない。隠れ住むということは己の弱さを自覚しているということ。
本来であれは少しくらい褒めてやりたいところだが、生かしておくわけにはいかない。
何せ盗賊どもは我が支配域を荒らしたのだからな。
「邪神様、あそこが盗賊の巣なんですけど……。なんでエリシィまで連れてきてるんですか?」
「こいつには強くなってもらわねばいかんからだ」
エリシィの強さならば、そこらの人間であれば問題ないだろう。
ただし先日の商人の護衛と戦った時には殺さずに生かしていた。
あれが少しばかり気になったのだ。なぜ殺さなかったのか、問い詰めたところによるとこんなことを言った。
何も殺す必要はない、と。どういうことかと聞くと、無駄に命を奪う必要はないなどという要領を得ない返答があった。
どんな人間にも家族がいる。愛する者がいる。殺せばそいつらが悲しむ。
この言葉を聞いた時、私は思考が彼方に飛びそうになったものだ。パンケーキよりも遥かに甘ったるい。
こんな思考でよく今まで生き残ってこられたものだ。これは是が非でも正さねばならん。
「エリシィ。お前には盗賊どもを殺してもらう」
「テ、テオ様。殺さずに捕えるとかは?」
「その必要性がどこにある?」
「殺すにはちょっと……」
このエリシィの反応の答えはすでに持っている。疑問に思った私は領民どもを無作為に選んで同じ質問をしてみたのだ。
そうするとやはり同族を殺すことに抵抗を示す者が一部いた。あのテオール達が私に挑んだ動機でもある。
要するにエリシィには情があるのだ。同族を想う気持ちはテオールのように強さにも直結するが、殺るべきことは殺らねばいかん。
「エリシィ、聞け。貴様に大切な人間はいるか?」
「い、いるわ。テオ様、急にどうしたの?」
「その大切な人間が盗賊のような畜生に命を奪われたらどう思う?」
「あ……」
本当は盗賊と対峙するまで黙っていようと思ったが、その前に死なれては敵わんからな。
先に答えを示してやるのも一つの手段だ。
「貴様が本当に大切なものを守りたいと思うのであれば殺せ。お前の大切なものを奪うものを殺せ。それが守るということだ」
「そう、よね……」
「理解したのならばついてこい」
「う、うん!」
本当に理解したかどうかは怪しいが、これ以上は実際にやってもらわねばな。
盗賊の巣に到着してみれば、なんとも身なりが汚らしい人間が入口に立っている。
洞窟を寝床にしているようで、改めて見ても人間の住居に適していない。これではまるで地竜ではないか。
あくびをかいて緊張感に欠けた奴だ。だが、私達を見つけるなり、急に武器を手に取って近づいてきた。
「こんなところにガキが迷い込んだのか? どこのお坊ちゃんと小娘だ?」
「私は貴様らが巣くっているこのエイクシル領の領主だ。とりあえず死ね」
ひとまず盗賊の首を素手で切断した。頭部が地面にごとりと落ちて、胴体も倒れる。
この程度の初撃も防げぬとはな。本当によく生きてこれたものだ。
「手本は見せた。エリシィ、次はお前がやってみろ」
「う、う、うん」
洞窟に入って進むと、盗賊どもが私達に気づいたようだ。
奥から駆け足でやってきて驚いた表情を見せていたが、すぐに不快なニヤけ面を見せる。
「これはとんだお客さんじゃねえか。近くの村のガキが迷い込んできたのか?」
「ま、待て! こいつだ! こいつがブベラをぶっ飛ばしたんだ!」
「なに!? お前、マジでこんなガキ相手に逃げ帰ったのかよ! バラル盗賊団の名折れだろうが!」
何の話をしておるのだ? そういえばバラル盗賊団という呼称は聞いたことがある。
以前、三人組で我が領地を荒らしていたことがあったな。仲間がやられて怒りを覚えるどころか、逃げ帰った害虫どもだ。
顔を本当によく見れば、確かに覚えがある気がしてならん。私もなかなか人間の顔を覚えられるようになったものだ。
それはいいのだがこいつら、なぜか立ち向かってくる気配がない。
それどころか、見覚えのある男が仲間に殴られているではないか。
「ぐはぁッ……」
「てめぇ、マジであんなガキにやられたとは思わなかったぜ。クソッタレがよ。なんで俺達がバラル盗賊団なんて名乗っていると思う?」
「じゃ、邪神のように、恐ろしい、から……」
「そうだ! これじゃ怖くもなんともねぇだろうがよぉ! 死ねや! このクソがッ!」
「ギャアアァァ!」
なんと、見覚えのある男が仲間に剣で貫かれてしまった。
男の身体が大きく痙攣した後、流血したまま事切れたようだ。
これはエリシィにとって好都合かもしれん。あの娘の価値観を考えれば、あのような行為は許せないはずだ。
つまり殺すことにより抵抗を示さなくなるだろう。
「あーあ、くっだらねぇ。ところでお前、領主のガキだよな? 俺はバラル盗賊団のボス、ギルスターだ。腕に覚えがあるみたいだが、ずいぶんと綺麗な身なりだな」
「何が言いたい?」
「貧乏貴族とはいえ、それなりの環境で飼われていた証拠だ。泥水をすすり、草を食い、ようやく生を実感したことなんてありゃしねぇ。お前を見ていればわかる」
「クッ、クククッ! そうか、貴様はたかが生きるのにそこまでしたのか」
「なんだとぉ……?」
これは滑稽だ。まさか声を荒げて自らの弱さを主張するとは思わなかった。
これも人間の性とでもいうのか? 口にすれば己の弱さを正当化できるとでも?
面白い。害虫には害虫の習性があるということか。
「私はまともな人間のおかげで生きられた。お前は見放された。ただそれだけのことだ。言いたいことはそれだけか?」
「このクソガキがッ! 野郎ども! 貴族のガキは殺せ! 女は好きにしろ!」
ようやくあちらの手下がやる気になったようだ。
私は身を引いて、エリシィに戦うように促した。躊躇するようであればそれまで、ここで死ぬだけのことだ。
もちろんファムリアにも手は出させない。
「はぁぁぁぁーーッ!」
「ぐあぁーーッ!」
思った通りだ。エリシィがその気になれば、こんな害虫など敵ではない。
一振り、二振りのうちに数人の男が首を斬られて血を噴き出して倒れている。
ものの数秒とかからず、残りは害虫どものボスだけとなった。
下らんことで手下を殺して戦力を削がなければ、また二秒ほど戦いは延長していただろう。
「テオ様、これでいい?」
「上出来だ」
盗賊どもはきちんと絶命している。それも悪戯に斬りつけず、殺すことだけを考えた斬り方だ。
首が切断、あるいは切断寸前まで斬られている死体が辺りに転がった。
ギルスターと名乗る害虫に先ほどまでの威勢がまったく見られない。
「ウ、ウソだろ……! クソッ! まだだ! 俺には魔術がある!」
ギルスターが両手に炎を纏わせた。ん? まとわせて、次に何がある?
「おい、そこからどうするつもりだ?」
「あ?」
「そのままではただの火遊びだ。魔術ならばせめて周辺を破壊するほどのものを見せつけるべきだ」
「何をほざきやがる。まさか魔術を見たことがないのか? だとしたら目算を謝ったな」
ギルスターが得意げに火柱を作って見せつけてきた。
テオールの仲間はせめてそのくらいやってのけたものだがな?
「そもそも貴様ら人間は魔術というものを理解しておらん。魔術とは神が人間に与えた救済なのだ」
「はぁ? 訳のわからねぇことをほざくんじゃねぇ!」
「貴様ら人間は神と違い、肉体が脆い。本来であれば地上から消えてなくなってもおかしくない生物だ。そこで神がお前達に魔力の存在を教えた。魔力をうまく使えば、人間でも火を起こすことはできるだろう」
「こ、こいつ、マジで何なんだ?」
低俗すぎて私の言葉が理解できないのだろう。呆れたものだ。
これ以上、説明してやる義理もないのだがファムリアが出しゃばりたいようだ。
「だからさぁ。お前ら人間が魔術を使えるのは魔力の存在を教えた神のおかげなの。魔力と魔術がなかったらお前ら、なーんもできないザコなんだからね」
「神だと! そんなものがいるか! 神がいるなら俺達みたいな人間がどうして生まれた!」
「お前、神を何だと思ってるの? 人間に都合がいい神ばかりなわけないじゃん」
「クソ! お前らなんぞ、まとめて殺してやる! ファイアストーム!」
炎のそよ風が向けられたが、私が前に立つことによってすべてかき消された。
魔力と魔術をもってしても、人間の中にはこの程度で終わる個体もいる。
実に哀れだが、テオールのような人間は稀だろう。
私が魔術をものともせずに近づくと、ギルスターが後ずさる。
「に、人間じゃ、ない……ば、化け物……」
土壁を背にして座り込んだそいつの顔を私が見下ろした。
先ほどまでの威勢はどこにもない。目に涙を浮かべて、生にしがみつく有様だ。
「た、助けてくれ! 心を入れ替えてやり直す! 頼む!」
「ほう、それは頼もしいな」
「だ、だから見逃して……」
「だが聞けんな。私の勘だが貴様らには何も望めん」
ギルスターに片手を向けて、波動で魂ごと消滅させた。ファムリアによれば、こうしなければアンデッド化されてしまうようだ。
「苦しむことなく逝けたな。これが貴様に対する救いだ」
残った死体も消滅させた後、私は盗賊の巣を探索した。
出てくるのは盗品の数々だ。エリシィによればかなりの値打ちものがあるようで、これをどうすべきか考えた。
これらを利用しない手はない。私はすべて持ち帰ることにした。
ブックマーク、応援ありがとうございます!
「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたなら
ブックマーク登録と広告下にある☆☆☆☆☆による応援をお願いします!




