40.覚束ず
「これで最後ですね。」
そう呟いた沖奈朔任隊長が、ドアを開けて、割と広めの部屋に入ってゆく。
室内はもとより、幾つものテーブルや椅子にソファは、黒焦げとなっていた。
また、右(南)側の窓は、どれもが割れてしまっているようで、ブルーシートが張られている。
足を止めた沖奈が、
「休憩室…、或いは娯楽室、といったところでしょうか?」
素朴な疑問を口にしたら、
「……、そうみたいだな。」
背後の架浦聖徒が返したのであった。
周囲を見回して、
「隠れられそうな所は一切ありませんね。」
こう述べた沖奈に、
「ああ。」
同意した架浦が、
「ここまで探して居なかったって事は…、隊長の考え違いだったか、もしくは、最初っから誤報だったのかもしんねぇな。」
そのように結論づけたのである。
「それは言えてますね。」
沖奈が納得したところで、
「そもそも“漠皁組の若頭”を目撃したのは、どこの誰なんだ??」
ふと訊ねる架浦だった。
「さぁ?」
「僕は連絡を受けただけですので、詳しくは知りません。」
穏やかに答えた沖奈を、
「〝警察が電話してきた〟ってことか??」
架浦が何気に追及する。
「ま、そうですね。」
肯定した沖奈ではあるが、これは嘘であった。
そんな事は知らない架浦に、
「とりあえず、外に出るとしましょう。」
こう告げた沖奈が、
「発動。」
指を〝パチン!〟と鳴らす。
それによって、架浦は、“自動ドア”の近くに【瞬間移動】したのである。
「お。」
景色が変わったことを認識した架浦の側に、続けて【テレポート】して来た沖奈だった。
駐車場を歩きながら、
「せっかく協力していただいたのに、なんだか、すみません。」
苦笑いした沖奈を、
「いやいや、〝危険な目に遭わなかったんだから寧ろ良かった〟と思おう。」
架浦が諭す。
「成程です。」
理解を示した沖奈が、
「それにしても、お腹が空きましたね。」
「もう正午を過ぎているので、当然ではありますが……。」
「どうです?」
「お昼、ご一緒しませんか??」
「お礼に奢ってさしあげますよ。」
こう提案するも、
「気持ちは嬉しいんだが、遠慮しとくよ。」
「これから、ちょっと、予定があるんでな。」
やんわりと断れてしまったのである。
「そうですか。」
〝ふむ〟と首を縦に振った沖奈が、
「まぁ、無理強いするつもりはありませんので、これにて失礼しますね。」
会釈して、車に乗り込む。
「じゃ、また、仕事で。」
左手を軽く挙げた架浦に〝ニッコリ〟した沖奈がアクセルを踏んで発進した。
沖奈が完全に去ったのを確認し、黒パンツのポケットからスマホを取り出した架浦が、何者かに電話を掛ける…。
▼
PM13:00――。
歌舞伎町をパトロールしているのは、筺健と隈本一帆であった。
「……。」
俯き加減の一帆を、
「どうした? 隈本隊員。」
「元気がないようだが、何か悩みでもあるのか?」
それとなく筺が心配する。
「あ、いえ。」
一帆は顔を上げたものの、
「なんでもありません…。」
再び視線を落とした。
改めての沈黙に包まれていったなかで、
「あのッ?!」
意を決したらしい一帆が、
「私たちは、いずれ、仲間内で戦わなければならないのでしょうか??」
このような質問を投げかけたのである。
「……、それを隈本隊員に教えたのは?」
いささか眉をひそめた筺に、
「沖奈隊長です。」
一帆が伝えたところ、
「そうか。」
「ならば安心だな。」
〝ふッ〟と笑みを零したのだった。
そうした流れで、
「我々は、その為に集められたようなものだから、殺し合いは避けられないのかもしれん。」
「とはいえ。」
「一人も死なずに済むのであれば、それに越したことはない。」
筺が本音を吐露する。
「…………。」
やや考え込んだ一帆が、
「副総監派と関東司令官派、どちらが怪しいのでしょう??」
「あるいは、総監派に“スパイ”が潜んでいる可能性もありますよね?」
少なからず訝しがった。
「…、あー、俺たちの事も警戒しているという訳か。」
こう察した筺は、
「ま、疑いたくもなるだろうな。」
得心がいったみたいだ。
「だが。」
「〝総監派に敵はいない〟と、俺は思っている。」
「いや、ただ単に、そう信じたいだけかもしれんが、な。」
優しく述べた筺に、
「私も同感です。」
一帆が頷く。
「ところで…。」
「十三番隊の先代がたが襲撃された事件は、なぜ犯人を特定できないのでしょうか??」
「防犯カメラの映像が残っていれば、スパイも含めて一網打尽に出来るのでは?」
新たに一帆が伺ったら、
「ん??」
「なんだ、沖奈隊長は、そこまで説明していなかったのか?」
半ば〝きょとん〟とした筺が、
「初代メンバーが惨殺された時間帯の前後、あの頃の拠点だった建物を軸とした半径1㎞の防犯カメラは、何故だか全て壊れていたそうだ。」
「なんでも、高圧電流によるものだったらしいんだが……、当日は〝雲ひとつない月夜で落雷などは無かった〟との話しで、詳細は分かっていない。」
そのように語ったのであった。
「そうですか。」
一応に解して、
「確か、今とは別のビルが本拠地だったのですよね??」
こう訊ねた一帆に、
「うむ。」
「新宿に違いはないがな。」
「ただ、既に解体されており、もはや跡形もない。」
「いわゆる事故物件ということもあって、周辺から気味悪がられたのが原因で。」
筺が告げたところで、電柱などに常設されているスピーカーから〝ビィ――ッ!! ビィ――ッ!! ビィ――ッ!! ビィ――ッ!!〟という警報音が響き渡り、
『およそ5分後に“時空の歪”が発生し、妖魔が出現します。』
『規模は小さめですが、近隣の方は念の為に避難してください。』
『予測される場所は――。』
“機械的な女性の声”によるナビゲーションが何度となくリピートされていく。
「お喋りは終わりだ。」
「行くぞ、隈本隊員!」
筺に促され、
「はい!!」
一帆が勢いよく答える。
そうして、西へと駆けだす二人だった―。




