39.にわかなバディ
二日が経っている。
時刻はAM11:20あたりだ。
それなりに広めの駐車場を歩いて、建物へと向かっているのは、黒で統一したワイシャツ・パンツ・革靴といった格好の“架浦聖徒”だった。
車が入ってきたことに気づいた架浦が、後ろを振り返る。
パーキングに停めた自動車から降り立ったのは、ネイビーのスーツ/ライトブルーのネクタイ/ブラウンの革靴を着用している“沖奈朔任隊長”であった。
「おや?」
「架浦さん。」
「何故こちらに??」
首を傾げた沖奈に、
「そっちこそ、なんで?」
架浦が不思議がる。
「……、漠皁組の件は、ご存知ですよね??」
沖奈が訊ねたら、
「ああ。」
「若頭が〝なんらかのスキルで逃げたらしい〟ってやつだな。」
「隊長の報告書に目を通したよ。」
「ザッとだけど。」
このように答えたのだった。
「その“若頭”なのですが…。」
「この周辺での目撃情報がありましたので、休日を利用して赴いたという訳なんです。」
「〝もしかしたら、ここに逃げ込んでいるのかもしれない〟と勘えましたもので。」
そう沖奈が語ったところ、
「“元研究所”にか?」
「隠れるにしたって何かと不便だろうに??」
架浦が眉をひそめたのである。
二人の側に聳える建物は、割と大きく、全体的に煤だらけとなっていた。
「ま、そうなんですけどね。」
「ただ……、〝念の為に調べておいたがいいだろう〟と思ったんですよ。」
こう述べた沖奈に、
「なるほど…、な。」
架浦が理解を示す。
「それで?」
「架浦さんは、どうして??」
沖奈に追及され、
「その、なんだ。」
〝すぅ―〟と息を吸った架浦が、
「15年前……、研究所で火災が起きた時に、親族が亡くなってしまってな。」
「いつも、命日あたりになると、こうして“お参り”に来てんだよ。」
どこか悲しげな表情となった。
「そのかたは、学者だったのですか?」
沖奈が素朴な疑問を投げかけたら、
「ん??」
「あー、…、ま、そんなとこだ。」
ふと遠い目になったのである。
「そうですか……。」
「辛い記憶を甦らせてしまったのであれば、すみません。」
会釈した沖奈に、
「もう過去の事だから、大丈夫だ。」
架浦が落ち着いた様子で伝えた。
〝ふむ〟と頷いた沖奈が、
「それにしても…。」
「“献花”は持っておられないようですね。」
なんとなく指摘したところ、
「いや、だって……、似合わないだろ? オレには。」
架浦が苦笑いしたのである。
「そのようなことはありませんけど…。」
「まぁ、こういうのは、〝気持ちが大事〟でしょうから、花は無くとも問題ないのかもしれませんね。」
〝ニッコリ〟して喋った流れで、
「僕も一緒に拝ませてもらいますよ。」
そう締め括る沖奈であった。
研究所の至近距離まで足を運んだ二人は、並んで、合掌している。
沖奈が姿勢を戻して、
「それでは、僕は屋内を調査していきますね。」
左隣の架浦に告げたら、
「え?!」
「大丈夫なのか??」
「あの事件以来、政府の“妖魔対策課”が管理していて、許可が必要なんじゃ?」
驚きを表したのだった。
訝しがられた沖奈が、
「心配は要りませんよ。」
「きちんと手続きを済ませてありますので。」
穏やかに返す。
「そう……なのか??」
釈然としていない“金髪ハーフ”に、
「架浦さんは、どうします??」
「お帰りになられますか?」
沖奈が尋ねたところ、
「いやいや。」
「どんな危険が潜んでいるのか分からねぇんだから、隊長を一人で行かせるわけにはいかないだろ。」
「隊員として。」
このように答えたのである。
正面玄関は“自動ドア”となっているが、既に機能していない。
センサーを見上げて、
「やはり作動しませんね。」
そう呟いた沖奈を、
「どうする??」
「ガラスを割るか?」
架浦が窺う。
「いえ。」
「それは“器物損壊罪”になってしまいますので、やめておきましょう。」
優しく諭した沖奈に、
「じゃあ、どうすんだ??」
架浦が質問したら、
「簡単ですよ。」
「こうすればいいんです。」
「発動。」
右の指を〝パチン!!〟と鳴らしたのである。
次の瞬間、建物内へと移った架浦が、
「あぁー、その手があったか。」
このように納得していたところ、ドアの向こうで、
「発動。」
〝パチィン!〟と再び能力を扱った沖奈も【テレポーテーション】してきたのであった。
ざっくりと周囲を観察して、
「まさに“焼け跡”って感じですね。」
そう述べた沖奈に、
「結構な規模の火災だったらしいからな。」
架浦が教える。
彼らの言うとおり、天井・壁・床は、殆ど黒焦げになっていた。
「さて。」
「どこから捜す?」
架浦に聞かれ、
「そうですね…。」
少し考えた沖奈が、
「あちらを探索してみましょう。」
左へと視線を送る。
「なんでだ??」
「何か根拠でもあんのか?」
架浦が急ぎ早に訊ねたら、
「はい??」
「なんとなく、ですが?」
瞼を〝パチクリ〟する沖奈だった。
「そうか……。」
「了解だ。」
首を縦に振った架浦に、気を取り直した沖奈が、
「さ、行きましょうか。」
そう促したのである。
暫く歩いた二人は、突き当りを右に折れた。
廊下の右側には幾つかの部屋が設けられている。
これらの室内を、大まかではあるもののチェックしつつ、更に進んでゆく…。
彼らの眼前には、階段とエレベーターが存在していた。
エレベーターは、当然、動きそうにない。
階段の左は“デッドスペース”となっており、2.5Mの高さに1.5Mくらいの幅がありそうだ。
そこに沖奈が足を運ぼうとしたところ、
「そっちは行き止まりだぞ、隊長。」
架浦が声をかけた。
ストップした沖奈は、
「ええ、確かに。」
「ただ。」
「この〝妙に無駄な空間〟が、なんだか怪しい感じがしましたもので。」
こう意見したのである。
「つっても、なんにもねぇだろ。」
「時間が惜しいから、他をあたろうぜ。」
架浦に催促され、
「……、分かりました。」
「そうしましょう。」
と、賛成する沖奈であった―。




