31.暗雲・破
約25分後に、沖奈朔任隊長がタクシーを降りた所は、板橋区にある“元スクラップ工場”の出入口あたりだった。
ここは、[第二次妖魔大量発生]の際に、経営陣が亡くなってからというもの、閉鎖されているらしい。
[第一次]のときもそうであったが、“妖魔の大量発生”は、〝世界中いろんな地域で同時に勃発した〟との事だ。
沖奈は、今、幾つもの廃車が山積みになっている敷地を、注意深く進んでいる。
彼の視線の先には、トタン製の大きな建物が存在感を放っていた。
壁も鉄扉も錆びついており、全体的に茶色い。
その扉は、80㎝ほどだけ開かれている。
まるで沖奈を招くかのように。
(どうやら、あそこのようですね。)
察した沖奈は、落ち着いた様子で、“トタンの建物”へと歩いていくのであった…。
内は割と広めみたいだ。
天井には、笠つきの“電球ランプ”が、等間隔に設置されている。
「沖奈隊長!!」
彼の右斜め前から声をかけてきたのは、隈本一帆だった。
白の長袖シャツ/紺色で薄手のジャケット/ジーンズ/黒のスニーカーである彼女は、縦2M×横4Mの箱型といった[黒鉄の檻]に閉じ込められている。
「隈本さん!」
沖奈が気付いたところで、
「来たね。」
離れた位置より、10人ぐらいの男性たちを引き連れて、ある女性が近づいてきた。
女は、グレーの半袖シャツ・ブラックの指なし革手袋・迷彩柄のパンツ・ダークブラウンのショートブーツを、着用していた。
背丈は185㎝くらいで、筋肉質な体型だ。
ライトブラウンの髪を“三つ編み”にしている。
ラテン系なのか? 肌は小麦色であった。
年齢は30歳ぐらいであろう。
そんな彼女の後ろに控えている男どもは、明らかに“チンピラ”のようだ。
ある程度の距離を保って止まった集団を、
「あなた方は??」
「それに……、これは一体どういう状況なのでしょうか?」
沖奈が静かに睨みつけた。
このタイミングで、
「すみません。」
「一時間ほど前に電話が掛かってきまして、〝沖奈隊長が捕まっている〟とのことで、不審に思いながらも、私が信じてしまったばかりに、このような事態になってしまいました。」
一帆が申し訳なさそうにしたのである。
「つまり…、隈本さんを利用したというわけですか。」
「僕を誘き寄せるために。」
そう推理した沖奈に、
「ま、そうなるね。」
〝フッ〟と不敵な笑みを零す“リーダー格の女性”だった。
▼▽▼▽
話しは少し遡って、PM16:30頃のことである。
自宅に居た一帆のスマホが鳴った。
彼女もまた、“非通知”に怪しみながらも、取り敢えず応対したらしい。
内容としては、
『クマモトカズホ、ダナ??』
『オキナサクト、ヲ、アズカッタ。』
『カエシテ、ホシケレバ、コチラガ、シテイスルバショ、マデ、イマカラ、ヒトリデ、コイ。』
『イウコトヲ、キカナケレバ、オキナサクト、ノ、イノチハナイ、ゾ。』
このような具合で、沖奈のときと、あまり変わらなかったようだ。
どこか胡散臭さを感じながらも、〝事実だとしたら沖奈隊長を助けねば!!〟と考えた一帆は、急ぎ、家を飛び出したのである。
その後は、電車を乗り継いだりしながら、“元スクラップ工場”に辿り着いたのであった。
屋内へと足を運んだら、件の者らが待ち受けていたらしい。
慎重に間合いを詰めていき、
「沖奈隊長は、どこです?」
こう窺った一帆に、
「そこで止まりな。」
「隊長を殺されたくなければね。」
“マッチョな女性”が指示する。
「…………。」
致し方なく、それに従ったところ、
「動くんじゃないよ。」
「さもないと、隊長の安全は保障できない。」
と、脅されてしまったのである。
「卑劣な…。」
怒りを堪える一帆の、頭上から、〝ヒュ――、ガシャアンッ!!!!〟と[鉄の檻]が下降した。
「これは??」
眉をひそめた一帆に、
「悪いが、アンタには、沖奈を呼ぶためのエサになってもらうよ。」
女が冷酷に述べる。
その周囲では、男性陣がニヤついていた。
「……、そういう企みでしたか。」
理解した一帆が、
「しかし、予定どおりにはさせませんよ。」
「このような代物で、私を閉じ込め続けられるとでも?」
両の拳を合わせつつ、
「発動!」
スキルを用いた流れで、柵を左右に開こうと、“鉄の棒”を握るなり、〝ビリビリビリビリィ―ッ!!〟と感電したのである。
「ぁがッ?!」
まともにくらった一帆は、不覚にも“コンクリートの床”に両膝を着いてしまったのだった…。
▼▽▼▽
「細胞が十倍に活性化されていたので、火傷などは殆どありませんが……、“高圧電流”には勝てませんでした。」
このように報せた一帆が、いささか俯く。
見れば、檻の上部には、“太めの鎖”と“黒いケーブル”が付属していた。
おそらく、鎖は鉄檻を吊るすためのものであり、ケーブルで電気を供給しているのだろう。
ともあれ。
「経緯は分かりました。」
「が。」
「何故、僕たちを狙うんです?」
「あなた方とは初対面であり、遺恨などは無い筈ですが??」
沖奈が首を傾げたら、
「まぁ、“雇われの身”である私は、憎んでなんかいないさ。」
「ただ…、こっちの男たちは、アンタらを怨んでいるみたいだよ。」
「なにせ、“俟團組”だからね。」
“ラテン系の女性”が伝えたのである。
「あー、……、組織が崩壊したきっかけとなった僕らへの復讐を果たしたいのですね?」
納得した沖奈が、
「で??」
「どうするつもりです?」
そう尋ねたところ、
「まず、腰の武器を、こっちに投げな。」
「おかしなマネしたら、嬢ちゃんが“蜂の巣”にされちまうよ。」
女が忠告するなり、反社どもが懐から取り出した[ハジキ]を、一帆へと向けた。
軽く〝ふぅー〟と息を吐いた沖奈が、観念したかのように、自分の[ピストル]と[スタンガン式警棒]を掴む。
「いけません! 沖奈隊長!!」
「私はどうなっても構いませんので、戦ってください!」
焦りながら願った一帆は、
「そうはいきませんよ。」
「僕は、隊長として、貴女を護る義務と責任があるのですよ、隈本さん。」
優しく微笑む沖奈に、いつもの如く〝キュン♡〟としたものの、すぐに〝そんな場合ではない〟と思い直したようだ。
とは言え…、為す術のない一帆であった―。




