3.初勤務・序
隈本一帆に、鐶倖々徠副隊長と、ハーフの架浦聖徒が、[事務室]に戻って来た。
「あ、隈本さん。」
「伝えておくことがありますので、こちらへ。」
沖奈朔任隊長に呼ばれて、一帆がディスクの前に近づく。
「こっちがシフト表で…、もう一つは連絡事項です。」
A4サイズの用紙を二枚、新入隊員に手渡した沖奈が、
「そこにも書いてありますが、基本的には週休二日制となっています。」
「東京組第十三番隊の勤務時間は午前8時から午後8時迄ですが……、他の隊からの協力要請があれば、時間外でも出動するときがありますので、心構えをしておいてください。」
「僕らの巡回は、午前9時から午前11時迄と、午後1時から午後3時迄に、午後4時から午後6時迄を、二人一組にて交代で行っています。」
「食事に関しては、早、遅に、分けていまして、これ以外にも小休止がありますので、ご安心を。」
「それから…、何か外せない用がある場合は、出勤日を誰かと替わってもらったり、有休を使えますので、覚えておいてください。」
「あとは……。」
このように説明していく。
しかし、一帆は、〝チラッ チラッ〟と朔任を見ており、紙に書かれた文字を追うどころではなさそうだ。
また、沖奈隊長の言葉も、殆ど頭に入ってきていない。
「――、と、まぁ、こんな感じですが、質問等はありますか??」
朔任に訊かれて、
「え?!」
いささか慌てた一帆が、
「いえ、今の、ところは、特に、ありま、せん。」
どうにか答える。
「ま、初日ですからね。」
「分からないことは、先輩がたに質問してください。」
「ゆっくり覚えていけば良いので、焦らなくて大丈夫ですよ。」
沖奈による再びの優しい微笑みに〝キュン〟とくる一帆であった…。
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「では、そろそろ始業時間となりますので、あちらに。」
朔任によって、一帆が自身の右方に視線を送ったところ、椅子から立ち上がった“ピンク髪ツインテール”の宮瑚留里花が、
「こっちだよぉ。」
「くまりーん。」
左手を〝ブンブン〟させて知らせたのである。
「くま……。」
ギャル特有の距離の詰め方に戸惑う一帆に、
「あー、宮瑚さんは、人に綽名を付けるのが趣味みたいなので、あまり気にしないでください。」
そう教える沖奈隊長だった。
一帆が、留里花の対面にあたるディスク席に腰掛ける。
前方から〝ツカツカツカツカ〟と歩いてきた鐶副隊長が、
「これ、全部、確認しておいて。」
“書類の束”を、机の上に置いた。
「新宿区に拠点を構えている幾つかの隊や、警察と、情報を共有しているのね。」
「で。」
「ここら辺は、先月の分なんだけど、一日で終わらせる必要はないから、落ち着いてチェックしていけば問題ないわ。」
「それと…、不明な点があった際には、遠慮なく聞いてね。」
倖々徠が伝える。
「あーしがレクチャーしてあげよっかぁ~?」
〝ニコニコ〟しながら提案した宮瑚に、
「お前には無理だろ。」
真後ろの意川敏矢がツッコんだ。
〝ムッ!〟として振り向いた留里花が、
「うっさいなぁー。」
「トッシーは黙ってゲームでもしてればぁあ~!?」
喧嘩を吹っかけたら、
「じゃあ、そうする。」
敏矢がディスクの引き出しを開けて、しまっておいたポータブルゲームを掴もうとした。
だが、
「働きなさい!!」
副隊長に阻止されてしまったのである。
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もうじきAM09:00になるという事で、
「おい、イカワ。」
「パトロール、行くぞ。」
元ヤンの緋島早梨衣が、促した。
「ん??」
「ボクも当番でしたっけ?」
正面の敏矢が首を傾げたところ、
「そうだよ!」
怒りを露わにした早梨衣が、
「しっかりしろよな、ったく。」
不愉快そうに椅子から立ったのである。
「おるぅあッ、ボヤボヤしてんじゃねぇぞ!!」
緋島に急かされて、〝ん~〟とダルそうに起立する意川であった。
こんな調子の二人に、
「でしたら、隈本さんも一緒にお願いします。」
「きちんと面倒みてあげてくださいね。」
朔任が声をかける。
「うっす。」
承諾した早梨衣が、
「ほら、ついてきな。」
一帆を誘う。
「いってらっしゃい、くまりん。」
「トッシー、サリーちゃんの指示に素直に従うんだぞ☆」
送り出す宮瑚に、
「行ってきます。」
会釈する一帆と、
「へい、へい。」
生返事する敏矢だった……。
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屋外にて。
建物の東側から〝ぐるり〟と南に回りつつ、
「あのエレベーターって、割と大きいですよね??」
素朴な疑問を投げかけた一帆に、
「あっちは裏口だかんな。」
「そんで。」
「業者とか、ビルに関係ある連中の、専用なんだよ。」
緋島が告げる。
「業者、ですか?」
一帆が理解できずにいたら、〝ピタッ〟と足を止めた早梨衣が、
「見てみな。」
「一階はパン屋で、二階が喫茶店、三階は整骨院なってんだろ。」
そのように教え、
「ここのベーカリーもカフェも、結構おいしいから、いつか食べてみなよ。」
意川が補足したのであった。
「ええ。」
「ぜひ、そうさせていただきます。」
一帆が頷いたところで、
「じゃあ、改めて、パトるとすっか。」
「とりあえず、歌舞伎町な。」
緋島が先頭になって進みだす。
早梨衣の背中を〝てくてく〟と追いながら、
「何も起きずに平和だと助かるんだけどな~。」
敏矢が呟く。
この発言が、当然のように、フラグになってしまうのだった―。