18.難件
「もしや、我々が突入する前に、逃げられた??」
「!」
「まさか……。」
「信じたくはないが〝内通者がいる〟という事か?」
険しい表情になった司令官に、
「そうかもしれませんし、〝なんらかのスキル〟という可能性もあるでしょうね。」
沖奈朔任隊長が声をかける。
「能力、ですか??」
担当責任者が振り向いて尋ねたところ、
「ええ。」
「例えば、俟團組の中に“未来を予言する者”がいるとか…。」
沖奈が答えた。
「そのようなスキルがあると??」
司令官が確認したら、
「正直、分かりません。」
「僕は、見聞きしたことがありませんので。」
首を横に振った沖奈が、
「ただ……、範囲に限界はあるものの、遠隔地の出来事を感知できる“千里眼”や、他人の秘密をいちはやく掴む“地獄耳”といった、そういう能力が存在していますので、未来の情報を入手する者がいたとしてもおかしくはないかと思います。」
こう持論を展開したのである。
「ふむ、成程。」
「…………、では、その線も含めて、調査を進めていきます。」
「我々は建物内の探索を続けますが、貴方がたはお帰りください。」
「わざわざご足労いただき、ありがとうございました。」
「また何かありましたら、よろしくお願いします。」
敬礼した責任者に、
「はい。」
「その際は、喜んで、ご協力させてもらいます。」
会釈した沖奈が、
「行きましょう。」
隊員を伴って、退室していく…。
ビルから離れた位置の路上にて。
沖奈に状況を説明してもらい、
「……、了解しました。」
「それでは、私は本部に戻って総監に報告しますので、これにて失礼します。」
お辞儀した秘書が、パーキングへと歩きだす。
そのタイミングで、〝ビィ――ッ!! ビィ――ッ!! ビィ――ッ!! ビィ――ッ!!〟という警報音が鳴り響き、
『およそ5分後に“時空の歪”が発生し、妖魔が出現します。』
『中規模となりますので、近隣の方は避難してください。』
『予測される場所は――。』
“機械的な女性の声”での放送が繰り返される。
「そんなに遠くはないですね。」
鐶倖々徠副隊長の呟きに、
「走れば4分ぐらいで到着しますよ。」
筺健が補足した。
「じゃあ、そうしましょう。」
微笑んで応じた沖奈に、
「今度こそ、お気を付けて。」
注意を促された秘書が、
「ええ。」
「皆さんも。」
冷静に頷く。
ほぼ同時に、警察のなかでも屋外で待機していたメンバーが、慌ただしくなっていったのである。
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ダッシュした隈本一帆たちは、都営地下鉄大江戸線[東新宿駅]の北西あたりで、息を整えていた。
白バイやパトカーに自転車で訪れた警察は、迅速に人々を誘導している。
およそ1分後に[時空の歪]が現れた。
ここから次々と出て来る敵集団に、
「輪入道か。」
筺が〝ギリッ〟と歯軋りする。
「苦手なんですか?」
一帆が素朴な疑問を投げ掛けたところ、
「いや、俺と同じ“火炎系”だから相性が悪い。」
「要は、〝こっちのスキルが通じない〟のだよ、隈本隊員。」
そう述べる筺だった。
[輪入道]とは、炎に包まれた車輪の中央に“男性の顔”が付属したものである。
直径1Mくらいで木製の車輪は、黒い。
坊主頭である男は、毛むくじゃらの髭を蓄えていた。
こういった姿の妖魔が〝ゾロゾロ〟と登場してくるなか、
「“中規模”ということは、総勢200体になるでしょうね…。」
「すみませんが、隈本さん。」
「僕と鐶さんの能力では敵を倒せませんし、今回は筺さんも無理なので、貴女に頑張ってもらう事になりますが、よろしいですか??」
「勿論、僕らも銃を用いて戦いますし、スキルで隈本さんをバックアップしますので。」
沖奈が伝える。
“想い人”に頼られ、嬉しくて小躍りしそうになるのを〝グッ〟と堪えた一帆が、
「お任せください!!」
と、元気よく応答したあたりで、[時空の歪]が消えた。
「出揃ったな。」
「……、妖魔どもが攻撃を開始するぞ!」
筺の言葉にて、
「発動!!」
両の拳を〝ゴンッ!〟と合わせるなり、もの凄い速さで10Mほどを駆けた一帆が、輪入道らの顔面にアッパーパンチやキックなどをヒットさせていく。
そんな一帆の後を追った三人が、敵どもの額を狙って、ピストルを発砲する。
この妖魔は、脳を損傷すると、灰と化す。
ちなみに、一帆によってフッ飛ばされ、うつ伏せや仰向けになった輪入道たちは、起き上がれずにいた。
また、打撃を当てられた部分は、陥没しているようだ。
[H.H.S.O 東京組第十三番隊]が押していくなか、一帆の右斜め前で、2体の敵が鼻息を〝ふぅ――――んッ!!〟と噴射した。
それは、輪入道が能力を扱う際のアクションである。
妖魔の行動に〝ハッ!〟とした一帆が、勢いよくジャンプした。
4Mほど跳んだ一帆の真下で、さっきの二体が車輪から“直径1Mの火炎”を放つ。
長さは6Mくらいだろう。
これらの炎が自然消滅するなか、左腕と左脚を真横に伸ばしつつ、右膝を立てた体勢で、一帆が〝ダンッ!!〟と着地する。
その左斜め前では、別の1体が、スキルを使おうとしていた。
一帆は避けれそうにない。
こうした光景が目に映った沖奈が、
「発動!」
左指を〝パチィン!!〟と鳴らす。
それによって、一帆は、沖奈の側へと“テレポーテーション”したのである。
この流れで、
「鐶さん!」
隊長が、副隊長に視線を送った。
意図を察したらしい鐶が、左の掌を、自身の胸元に添えながら、
「発動!!」
そう唱えたら、半透明の【障壁】が瞬時に形成されたのである。
なお、バリアは、半径5Mかつ高さ7.5Mの“ドーム状”であった。
タイムリミットは一回につき30秒とのことだ。
余談になるかもしれないが、各自のポジションは…、
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隈本一帆 筺健
沖奈朔任 鐶倖々徠
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このようになっていた。
10体の敵が、正面から“炎”を操っている。
しかし、4人は障壁によって護られているので、なんのダメージもない。
一帆以外は、銃のマガジンを新しいものに変えていく。
〝ふぅ――ッ〟と息を吐いた筺が、
「まだ割と残っているな。」
「これは、なかなか厄介だ。」
眉間にシワを寄せた。
更には、
「三人はオーバーヒートになってしまうかもしれませんね。」
「どうにかしないといけないのですが……、何も思い浮かびません。」
沖奈が苦笑いする。
「もうすぐバリアが解けます!」
「5、4、3、2、」
といった鐶のカウントにて、全員に焦りが生じるなか、妖魔グループの背後で〝パンッ!!〟という音がしたのだった―。




