14.不注意
二人は、[ゴールデン街]の付近に到着している。
息を切らせる架浦聖徒の15Mほど先に、“時空の歪”が出現した。
ここから〝ゾロゾロ〟と登場して来ているのは、“鳥のような顔をした二足歩行の妖怪”である。
どれもが、背丈は160㎝あたりで、大きめの[金槌]を所持していた。
「“大地打”か。」
筺健が呟き、
「あれで殴られると、マジで痛いんすよねぇー。」
架浦が嫌そうにする。
駆けてきた敵どもが、かなり迫ったところで、
「数は20体ぐらいだから、どうにかなるだろう。」
腰の拳銃を右手で抜いた筺が、
「架浦隊員、頼む。」
こう告げたら、
「了解っす。」
架浦が両の掌を〝パチン!〟と叩くのと同時に、
「発動!!」
スキルを使った。
それによって、大地打らがストップしたところで、
「発動。」
左手で自分の耳を抓んだ筺が、口から[炎]を吐いたのである。
架浦聖徒の能力は〝対象者たちの動きを2秒だけ止める〟というものだ。
範囲は、本人を中心とした直径20Mらしい。
筺健のスキルは〝射程距離5M〟なのだそうだ。
とにもかくにも。
架浦と筺のコンビが、連携して妖魔集団と戦っていく。
手順としては、架浦が大地打たちを停止させ、ここを筺が攻撃するというものだ。
が。
それで全て上手くいくとは限らない。
筺が3体の敵を燃やしている間に、架浦の能力がタイムリミットを迎える。
この隙に、妖魔が再び一斉にダッシュした。
当然、架浦は改めて手を叩き、動きを止める。
そこへ、筺が[火炎]を放つ。
これを繰り返していくも、大地打らは確実に詰めてきた。
なかには、上半身を焔に包まれてもなお果敢に攻めようとする妖魔もいるみたいだ。
筺の左斜め後ろで、
「しつけぇーなッ!」
軽く〝ギリッ〟と歯切りした架浦が、四度目のスキルを扱うのと同時に、1体の敵が[金槌]を投げつけてきたのである。
架浦の能力は、生命体をストップさせる事は出来ても、物質は不可能らしい。
顔面に当たりそうな武器を、
「ぬおッ?!」
架浦が首を右に捻って躱す。
「あっぶねぇー。」
自分の後方へと飛んで行き、歩道に転がっていく金槌を、振り向いて目視した架浦が、〝ハッ〟とした。
そっちに気を取られ、スキルの発動を忘れてしまい、側まで寄ってきた別の一体が、武器を振り上げたのである。
頭を殴られそうになる架浦が、急いで能力を用いようとするも、間に合いそうにない。
無意識のうちに架浦が眉間にシワを寄せたタイミングで、〝パンツ!!〟という音が聞こえ、襲ってきていた大地打が“こめかみ”から流血して、横倒れになった。
「大丈夫か!?」
「架浦隊員!」
どうやら、声の主である筺が、発砲して助けてくれたようだ。
「はい、お陰様で。」
〝ほっ〟とした架浦ではあったが、
「筺さん!」
すぐに血相を変えた。
“火達磨”になっている一匹の妖魔が、筺めがけて、右から左へと武器を払ったのである。
「むッ?!」
筺は、咄嗟に、両腕をクロスさせた。
そんな筺の左前腕に〝ドゴンッ!!〟と金槌がヒットする。
「つぅ~ッ!」
筺が痛みで表情を歪めたところに、
「発動!!」
〝パチン!〟と手を打った架浦によって、大地打らが停止した。
この機を逃さず、筺が[炎]を使う。
それによって、敵は完全に“灰”と化したのである。
現在、妖魔たちの九数が絶命していた。
オーバーヒートを起こす前に決着をつけたい筺と架浦だが、少し厳しいかもしれない。
二人には、やや焦りの色が見える。
ここへ、四体の“アンドロイド警察”が合流してきた。
余裕が生じた筺&架浦は、落ち着いて対処していったのである…。
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全ての大地打を消滅させ、一息つくなか、
「すみません、筺さん。」
「オレの所為で。」
架浦が頭を下げた。
「なぁ~に、気にするな。」
優しく述べた筺が、
「そっちは無事か?」
ロボット達に視線を送る。
一体は右肩を、もう一体は左太腿を、破壊されていた。
肩にダメージを負わされたほうのアンドロイドが、
「コレグライデシタラ、シュウリデキマスノデ、モンダイアリマセン。」
そのように伝えたら、
「そっか。」
筺が〝ふむ〟と頷き、
「じゃあ、パトロールを再開するぞ、架浦隊員。」
と、促したのである。
「いや、それよりも、病院に行ったがいいんじゃないすか??」
目を丸くした架浦に、
「もう、受け付け時間、終わってんだろう。」
筺が返す。
「だったら、筺さんだけでも事務所に戻って、応急処置してくださいよ。」
架浦が提案するも、
「この程度、心配ない。」
「さぁ、巡回だ。」
笑って歩きだす筺であった……。
▼
翌日。
念のために、診察してもらった筺は、一時間ほど遅刻してきたのである。
沖奈朔任隊長には予め連絡しておいたので、他のメンバーも承知していた。
なお、この日は、意川敏矢と宮瑚留梨花が休みである。
「どうでした?」
症状を尋ねた沖奈に、
「一応、包帯を巻かれましたが、打撲でしたので、仕事には差し支えありません。」
筺が報告したところ、
「良かったぁ。」
架浦が胸を撫でおろす。
鐶倖々徠副隊長は、秘かに安堵したみたいだ。
「それは何よりです。」
〝ニッコリ〟した沖奈が椅子から立ち、
「僕は、これからパトロールに赴きますので、皆さん、留守をお願いします。」
「筺さんは、あまり無理しないでくださいね。」
こう述べる流れで、木製のコートスタンドから、隊用の“黒い帽子”と、マントを手に取った。
襟付きのマントは、腰あたりまでの長さで、ブラックである。
それらは、各隊長の証らしい。
ちなみに、副隊長たちは、腕章を着けていた。
どちらも、平隊員と区別するためである。
いずれにせよ。
二つのアイテムを装備した沖奈が、
「お待たせしました。」
「では、出発しましょう、隈本さん。」
一帆に伝えた。
声を掛けられた隈本一帆が、
「は、はい。」
緊張した様子で、ディスク席から起立する。
彼女の頬は、恋心によって、薄っすらと赤くなっていた―。




