12.夜は短し
店外にて。
「よぉ~し、もう一軒いこぉう!」
宮瑚留梨花が拳を突き上げる。
時刻はPM22:05あたりだ。
「ま、終電まで、まだ余裕があるからいいけど…、カラオケはダメよ。」
「私、歌うの得意じゃないから。」
鐶倖々徠副隊長に釘を刺されて、
「ええ~??」
不服そうにする宮瑚であったが、
「ボクも、パス。」
意川敏矢と、
「アタシも。」
緋島早梨衣や、
「俺もだ。」
筺健に、却下されてしまい、
「はいはい、わっかりました。」
「しゃーないなぁ。」
渋々ながらも受け入れた。
「でしたら、およそ半年前に僕らが結束会を開いたお店はどうです?」
沖奈朔任隊長の考えに、
「あー、あの、雰囲気のある所かぁ……、いいねぇ。」
架浦聖徒が好反応を示し、
「あーしも、さんせぇ~い。」
留梨花が同意する。
別の隊員たちも異論は無いらしい。
「それでは、行きましょう。」
朔任が先頭に立ったところ、
「じゃ、“さっくんたいちょー”は“くまりん”をエスコートしてあげて♪」
「なんてったって“本日の主役”なんだし☆」
「あーしらは、あとを付いてくから。」
隈本一帆の背中を、宮瑚が両手で〝ぐいぐい〟押した。
戸惑う一帆を余所に、
「そうですね…。」
「では、隈本さん、ご一緒しましょう。」
沖奈が笑顔で誘う。
左隣に並んで歩く一帆は、緊張から俯いている。
「――したか??」
朔任の言葉が耳に入っていなかったらしく、
「はい?」
一帆が聞き返した。
「〝十三番隊での生活には、もう慣れました??〟と、お伺いしたいんですよ。」
ニッコリする沖奈と目が合い、〝ドキンッ♡〟とした一帆は、トキメキを覚えつつ、
「はい、そうですね。」
「皆さん、良くしてくださいますので。」
そのように述べたのである。
何かしら会話していく二人から少し離れた後方では、
「んん~、くまりん、〝キュンキュン〟してるみたいだねぇ。」
「いいねぇ、“アオハル”だねぇ~。」
宮瑚が嬉しそうにした。
「ちょっと、あからさまなんじゃないかしら?」
鐶副隊長の指摘に、
「ええー??」
「そぉおう?」
「あれくらい大丈夫っしょー。」
留梨花が答える。
こういったやり取りに、
「あ!!」
「え?!」
「そーいう事なの??」
意川が〝ピン!〟ときたようだ。
「ま、そういうこと、だな。」
緋島が肯定するも、理解できなかったらしい筺は自身の腕を組んで、
「ん?」
「どういう事だ??」
首を傾げたのである。
「マジっすか?」
「筺さんて、恐ろしいぐらい鈍感ですよね。」
敏矢が唖然とし、
「まぁ、筺さんは、そのままでいいっスよ。」
早梨衣が〝うん うん〟と頷く。
「いや、だから……、どういうことなんだよ!?」
その方面に疎い健は、より一層に困惑した。
背後を〝チラッ〟と振り向いた倖々徠に、
「かなっちふくたいちょー、これはムズイかもねぇ。」
「マサルンには、ハッキリ言わないと伝わらないんじゃない??」
「こ、い、ご、こ、ろっ♪」
宮瑚が囁く。
「な、何を?!」
〝ギクッ!!〟とした鐶は、
「別に、いいのよ。」
「私は“仕事一筋”だから。」
すまし顔となって、平静を装う。
「またまたぁ~。」
「素直になりなってぇー。」
右肘で〝ウリウリ〟してくる留梨花を、
「うぅ~、うるさい!」
倖々徠が迷惑がる。
〝キャッキャッ〟と楽しそうにする宮瑚の左斜め後ろでは、
「アイツ…、はしゃぎすぎだ。」
架浦が眉間にシワを寄せていた……。
▼
翌日のAM07:55ごろ。
ビルの裏口で、二日酔いの聖徒が、エレベーターが1階に到着するのを待っている。
「おっはよーん。」
声の主に視線を送り、
「…、宮瑚か。」
架浦が呟いたところで、エレベーターの扉が開く。
「なぁに?」
「顔、青いよ。」
「うちらが帰ったあと、どんだけ飲んだの??」
喋りながら乗り込む留梨花に、
「いまいち、覚えてねぇ。」
「タクシーで家に辿り着いたのは、なんとなく記憶してるんだが……。」
気持ち悪そうにしている聖徒が続いた。
4Fへと上昇し始めたエレベーター内で、
「お前、昨日のあれは、なんだ?」
架浦に訊かれ、
「〝あれ〟ってぇ??」
宮瑚が逆に尋ねる。
「隈本や鐶の世話を焼こうとしてた件だよ。」
「あいつら、くっつけて、どうすんだ!?」
「オレたちは、いずれ、殺し合うかもしれねぇんだぞ!!」
「“友達ごっこ”は、いい加減に」
こう告げていく聖徒を遮り、
「分かってるよ!」
「でも、そうはならないかもしれないじゃん!!」
「むしろ、争わないで済むように、あーしは仲良くしていってんのッ!」
留梨花が反発したタイミングで、ドアが改めて開いた。
先にエレベーターから降りた宮瑚が、
「ミッツーの、バカァー!!」
左手で自分の顎に触れて、
「発動!」
架浦に対して“霧”を放ったのである。
「おま!!」
焦った聖徒が、幻覚によって、誰も居ないエレベーターの右側に、
「へぇーい! お姉さんたちぃ~。」
「一緒に遊ばなぁ~い?」
手を挙げたところで、扉が閉まった。
「ふんッ!!」
踵を返した留梨花は、怒りが冷めやらないままに〝スタスタ〟と[事務室]へ進んだのである。
▼
ほぼ同時刻。
自室のベッドで、一帆が〝フ〟と目覚めた。
彼女は、本日、休みである。
枕元のスマホで時間をチェックした一帆は、
(少し、寝すぎた。)
まだ〝ボォ――〟としているみたいだ。
「…………。」
そんな一帆は、天井を見つめながら、昨夜のことを思い出していた。
二軒目の店舗では、宮瑚の計らいによって、一帆は沖奈隊長の隣席にしてもらったのである。
このときに、
『隈本さん、なに飲みます??』
『隈本さん、これ美味しいですよ、食べてみませんか?』
『隈本さんは…』
『隈本さんの……』
など、何かと優しく微笑みつつ語り掛けてくれた朔任が脳内に自然とリピートされ、なんだか〝ぽわっ〟とした一帆が、うつ伏せになって、
(やっぱり、好き。)
そう再認識し、枕を〝ギュッ〟と抱きしめたのだった―。




