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クリーンヒット

咲いた咲いたチューリップの花が。

並んだ並んだ赤青黄色。

どの花見ても綺麗だな。

…赤青黄色が綺麗だと思えるのは、どうやら花だけらしい。

自分たちを取り囲む生き物を見渡しながら、ナナギはそう実感した。

「気持ち悪ぅ…」

「んなこと言ってる場合かよ」

げんなりと呟いたナナギに、チサヤがすかさず突っ込んだ。

じりじりと詰め寄ってくるそれらのモノから間合いを取るように、少し後退りする。

その間にも、ホルダーに引っ掛けた銃を右手に移す。

「ナナギ。武器は持ってきたか?」

同じように長く大きい剣を構えながら、少し向こうから聞こえたクシナの質問に、首を横に振りながらナナギはきょろきょろと忙しく瞳を動かした。

「樹の後ろに隠れてて」

ナナギの行動の意図を察し、レイが的確に指示を出す。

だが、彼女は戸惑ったように苦笑を浮かべた。

「あ、あたしにも何か出来ないかな…」

「そこら辺の石でも投げとけば?」

さすがに一人だけ安全な場所で隠れているというのは気が引けるらしい。

そんなナナギの言葉に、チサヤが面倒臭そうに答える。

残念ながら、クシナとレイはもう戦闘体制に入ってしまったようだ。

ナナギの声は届かない。

「じゃ、じゃあ石…」

しゃがみこんで小石を拾った瞬間、全てが始まった。

魔物の咆哮が轟く。

非人体的な体が、宙を舞い踊りかかる。

チサヤが銃口を向ける。

クシナが大剣を振りかぶる。

レイが目を閉じ呪文を唱え始める。

そして、ナナギが情けなく石を構えた。

「ていっ」

「ってぇ! ナナギてめぇどこに投げてんだよ!」

「ごめん!」

ああ。

会話から分かるように、何だか残念な感じになっています。

一応説明しますと、ナナギの放った石は、へろへろと頼りない弧を描き、見事に仲間であるはずのチサヤの後頭部へとクリーンヒットしたわけです。

勿論、そんなこちら側の内情なんか考慮してくれるはずもなく、そうこうしている間に魔物は襲い掛かってきた。

赤色の体に、うっすらと浮かんだ緑の斑点。

筋肉が不規則に盛り上がった腕と足は、顔に比べて異様にでかい。

分厚く腫れぼったい唇からは、生臭い唾液がこぼれ落ち、目は濁った沼色だ。

「いいいぃぃぃっ!!!」

そんな魔物を間近で見つめ、ヒロインっぽくない叫び声をナナギがあげた。

その声に顔をしかめたチサヤだったが、そこは何か差があるのか焦ることなく銃を持ち直すと、にまりと笑った。

「見てな、ノーコン女」

その言葉に失礼な!

と喉まで込み上げたナナギだったが、次の光景を見てごくりと飲み込んだ。

ドギュンッ。

どうともつかない、そんな音が響くと同時に、目の前にいた数匹の魔物が一瞬にして、散り去った。

「な、なんでぇっ!?」

「は? 何で?」

てっきり、すごーい。

などという賞賛の言葉を期待していたチサヤは、ナナギの声に肩を落とした。

「一発しか撃ってないよね?」

「あー、この弾特殊なんだわ。いい位置に当たれば何匹でもどんと来いだな」

また笑って、チサヤは銃を傾けてみせた。

「へー!」

ナナギの顔が輝く。

幼い頃から一緒にいたタキの影響か、ナナギは銃やら剣やらという男らしいものにも興味があるのだ。

「いーなー! なんかかっこいい!!!」

「ま、そらそーだな。お前の石っころに比べれば何千倍もいかすな」

「チサヤが石でも投げろって言ったんじゃない!」

「ノーコンすぎんだよ!」

「ひっどーい!」

ぷくぅっと頬を膨らませたナナギと眉をひそめたチサヤがしょうもないことで言い争っているとき、クシナとレイは真面目に戦っていた。




「レイ、大丈夫か?」

肩で荒く息をしながら、クシナがレイを見た。

焦げ茶色の髪は、心なしか乱れている。

そんな様子は、不謹慎にも色気を感じてしまうほどに、大人びていた。

「何とかね」

にこり、と場違いに穏やかな笑みを浮かべてレイはロッドを軽く回した。

翡翠色のロッドの先から、零れるように氷の粒が吹き出す。

その氷の粒は一直線に、群がる魔物の群れの中心に向かっていく。

その氷の列が見えなくなる頃に、レイはロッドをもう一度回し、ふっと息を吐いた。

その瞬間、群れの中心がまばゆいばかりの光を放ち、銀に煌めいた。

「アイスタワー」

何故か心の底から楽しそうに呟くレイ。

視線の先には、確かに氷の塔が出来ていた。

見た目は良いものの、目を凝らしてみれば透き通る氷の中には、悲痛な顔で固まった無数の魔物が凍っている。

それを見て嬉しそうに笑うレイは何というか…。

悪趣味ですね。

「だああぁぁっ!!」

真横で笑うレイを気にも止めず、男前な声を上げているのは勿論クシナだ。

長くてごつい大剣を軽がると振り回し、周りにいる魔物を次々に吹き飛ばしていく。

まさに、圧巻。

冒険者の家系というだけあって、それなりの教育は受けているようだ。

数えきれないほどいたはずの魔物たちは、何時の間にやら数匹に減っている。

真面目に戦っていたクシナとレイの努力の賜物だろう。

その光景を見て、安堵の息をつく二人。

はい。

お疲れ様でした。

………なーんてあっさり終わってしまうわけ、無いですよね?

ズシッ。

地面に穴が開くのではないかと懸念されるような、重苦しい地響きがした。

汗で額に張りついた髪を払っていたクシナが、ぴたりと動きを止める。

嫌な予感がする。

先程までの魔物達は、お世辞にも強いとは言えなかった。

雑魚と言っても良いだろう。

つまり、安易に予想できる展開の一つにこんなものがある。

雑魚の後には……。

「ウガアアアァァッ!!!」

ボスが来る。


こんにちは~。

椎名です。

ああああ。

やっぱり戦闘シーンは苦手です。

           瑞夏

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