早くも初戦闘
「うー、疲れたー」
わざとらしく足を引きずる様にして歩きながら、ナナギは額に浮かんだ汗を手で拭いた。
「またかよ? 体力ねぇなあ。運動しねぇと牛になるぞ」
ここぞとばかりに憎まれ口を叩くチサヤから、露骨に顔を背けて、ナナギはクシナとレイを交互に見た。
どちらに頼むべきだろう。
ぼんやりしているように見えて、たまに打算的な能力を発揮するナナギは、瞬時に考えを巡らせた。
クシナには絶対的決定権がある。
これは不本意ながらリーダー化してしまった事による、唯一の利点だろう。
次にレイ。
彼はパーティ一優しいのだ。
一番成功率は高いのだが、たまに飴と鞭方式に乗せられてしまうのが難点だ。
ちなみに、チサヤは論外と考えているらしい。
まあ妥当なのだが。
「クシナ、ちょっとだけ休憩しようよ。ほら、あそこにいい感じの木陰発見!」
どうやらクシナを選んだらしい。
少し先に見える青々とした大樹を指差しながら、ナナギはにこっと笑った。
「こいつの言うこといちいち聞いてたら、いつ町に着けるか分かんないぜ」
「ちょっとチサヤ黙っててよ!」
水を差しにわざわざやってきたチサヤを睨む。
勿論、ナナギの軟弱な目力に負けるようなチサヤではない。
ないのだが、残念ながらクシナはレイと同等に優しかった。
チサヤの言葉も気にはしたようだが、疲れたというナナギを無視できるはずもなく、決断をした。
「じゃあ、少しだけな」
さわさわと、風に緑の葉が揺れて音を立てる。
それはとても癒しを呼ぶもので、ナナギも例外なくその癒しに浸り、目を閉じていた。
太い幹を背もたれにし、寄りかかる。
その樹は、誰もが目を見張る大きさで、四人皆が寄り掛かってもまだ余裕があるほどだった。
「あー、極楽~」
「温泉入った婆さんかよ」
「チサヤ!」
極上の癒しを妨げられて、いつもより強く名を呼ぶ。
対してダメージはないが、形ばかり肩をすくめてチサヤは舌を出した。
「ところで、最初の目的地はどこかな?」
二人を眺めながら、レイが横にいるクシナに尋ねた。
「そうだな。とりあえず、一番近い町が…セルフィオネだな。そこで、情報収集としようか」
「了解。あとどれくらいで着く?」
「何も問題なく進めば、今日中には着くだろうな」
「何も問題なく進めば、ね」
意味深にレイが呟く。
「何かあるの? 痛いってば! 離しなさいよ!」
「お前こそつねってんじゃねぇ! で…ああ。なるほどな」
ナナギは髪を、チサヤは頬を互いに引っ張られながら、クシナ達の会話に口を挟んだ。
これまでの経緯は…。
察してもらいたい。
「なるほどなって、チサヤ分かったの?」
「ま、な。鈍感女とは訳が違うんで」
「あんたはいちいち一言多いのよ!」
「はいはい。そこまで」
第二ラウンドが始まりそうなところで、クシナが仲裁に入る。
さすがにこれ以上付き合ってられないようだ。
最も、ナナギも言われなくてもやめただろう。
…この光景を見た瞬間に。
「ま、魔物……!?」
辺りを囲む無数の生物。
それはどう見ても人間には見えず。
友好的にも見えず。
あえて言うなら、そう。
好戦的。
旅が始まって早数時間。
早くも初戦闘のようだ。
こんにちは。
椎名です。
いよいよ私の大の苦手な戦闘シーンに差し掛かってしまいました・・・。
あああ。
温かい目で見守ってやってください。
瑞夏