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プライドと本音

「にん…げん…?」

ナップを笑顔で出迎え、その後ろに続くナナギ達の姿をちらりと見ると、村人の顔が強張った。

二度見した後、血相を抱えて村人は脱兎の如く走り去っていった。

「えっ!? ちょっと!」




呆然とそれを見送ったのは、つい一分ほど前。

目をまん丸にして首を傾げる一同の中で、不意にナップが手を叩いた。

「あ。そういえば、うちの村、大の人間嫌いだったかも」

「えぇっ!?」

何を今更。

メンバーの声がぴったりと揃ったのも無理はないだろう。

へへ、とナップは決まり悪そうに頭を掻く。

呑気なものだ。

「いや、もう少し先に行くと人間の村があるんだ。昔はけっこう仲良くやってたんだけどさ…」

「出てけっ!」

ナップの話を遮るように響いてきた怒号に、ナナギ達は一斉に振り向いた。

そして、思わず言葉を漏らす。

「嘘…」




その数、ざっと五十人はいるだろうか。

皆それぞれに鍬やら鎌やら、物騒なものを手にしている。

その目は一様に、天敵らしい人間であるナナギ達を睨むように見据えている。

「あわわわわ…」

「一昔前の漫画みたいになってるぞ、落ち着け」

驚きのあまり、時代を逆流してしまったナナギに、クシナが冷静なつっこみを入れた。

既に半泣きだったナナギが顔を崩す。

「だ、だって…」

「あああ、泣くなって。ほら」

ごしごしと、ナナギの目尻に呆気なく浮かんだ涙をクシナが袖で拭いてやる。

まるで母親のようだ。

「ナップ! 早くこっちへ!」

鎌で牽制しながら手招く彼らに、ナップが眉をひそめた。

ぎゅっと拳を握り締め、目を吊り上げる。

「なんだよ、それ! 確かにこいつら人間だけど、村の奴らとは何の関係も無いじゃんか! よく知りもしないでそんなこと言うなよ!」

「人間は人間だろう! よく知りもしないではお前も一緒のはずだ。そいつらがわしらに害を与えない保障はどこにある!?」

「そんなの…」

「うわっ!」

「クリスさん!?」

尚も言い返そうと前のめりになったナップだったが、クリスの声に慌てて振り返った。

「いてー…」

手の甲を押さえて、クリスが顔をしかめている。

足元には、ころころと微かに音を立てて転がる小石。

それをじっと見つめて、クリスは視線を上げた。

石を投げた犯人を捜すように、ぎろりと睨みつける。

「誰だ…」

よ、の一言を言い切ることは出来なかった。

「いい加減にしろよ!」

しん、と水を打ったように辺りが静まる。

あーあ、怒らせた。

まるでそう言うかのように、怒りの勢いを削がれたクリスが頬を掻く。

「保障? なら村の皆だってわかんないじゃんか! そんなこと言ってたらキリないよ! しかも何の手出しもしてない人たちに石投げるなんて! それこそ! みんなが嫌う人間と同じだ!」

ナップの剣幕と、心に突き刺さる正論に村人がたじろぐ。

素直で真っ直ぐな子供ならではの言葉は、胸に痛い。

「あの、本当に村を襲ったりとか、そんなつもりはないんです!」

「信じていただけると嬉しいのですが」

ナップに続いて、クシナとシャオロンが頭を下げた。

真摯なその姿勢に、更に村人がうろたえる。

後ろには、こんな状況にも関わらずにこにこと笑っているレイ、またも涙目のナナギ、そのナナギにしがみつかれているリィーリア、そしてむすっと仏頂面をしているチサヤ。

きっと、どういう表情をしていいのか分からないのだろう。

村には入れてもらいたいが、かといってレイのように人懐こくも笑えない。

何となく頭を下げるのも悔しい。

プライドと本音がない交ぜになった、そんな顔だ。

少なくとも、害がありそうには見えない。

「…」

村人は黙りこくってナナギ達を見回す。

そして、無言のまま顔を見合わせると、揃い合わせたように同時に手に持っていた、物騒な得物を地面に落とした。

「子供に諭されるとは、思わなかったな」

そう言う彼らの顔には、うっすらと笑みが浮かんでいた。

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