スレンダーだからな
「ねぇねぇ、クリス?」
「あ? なんだよ、ニヤニヤして」
気持ち悪ー、と一蹴してからクリスはナナギに向き直った。
眉をひそめつつも、ナナギはクリスの耳に顔を寄せる。
「あの子さ、クリスのこと好きなんじゃないかな」
「あの子って…ナップのことか?」
「そう。…っていうか、他にいないよね」
クリスは反芻するように数回頷き、ほんの少し先を歩く先ほどの少年、ナップを見やった。
別段何の派手なリアクションも取らない所を見ると、クリスも薄々は感じていたらしい。
じーっとナップを見つめた後、クリスは肩を竦めて鼻で笑った。
「ガキに好かれてもなぁ」
「クリスも見た目は十分子供だよ」
間髪をいれず、ナナギが一言。
ぎろりとクリスに睨まれてもそ知らぬ顔だ。
「言うようになったじゃねーか」
「えー、何のこと~?」
「…」
「…」
しばしの沈黙を挟み、二人は目を合わせてにっこり。
喧嘩するほど仲が良い、の法則を当てはめるのであれば、素晴らしい仲のよさを見せ付けた二人だった。
ちらちら数秒おきにクリス達の方を振り返るナップの態度は、ナナギじゃなくても分かりやすかった。
「ナップ、お前もしかしてクリスのこと好きなの?」
苦笑しながら、チサヤはナップの肩を叩いた。
ナップを挟んで隣のシャオロンも、無表情ながら頷いている。
「おう! 超可愛いよな。村にあんな可愛い人いねぇもん! しかも優しいし」
「え、やさ…?」
「というか、いっそ清々しいまでに潔が良いですね」
キラキラと瞳を輝かせるナップに、チサヤが顔を引きつらせる。
「クリスが優しい? お前なんかぜってぇ誤解してるぞ」
「優しいじゃんか! しかも華麗!」
「華麗、ですか」
確かに華麗は華麗かもしれない。
あの見た目年齢にして、優美とか流麗とかいう単語が似合うのは、クリスくらいのものだ。
「あ、ほら。そろそろ村だ」
流石に登り慣れているのか、かなりの傾斜の坂を上りながらもナップの息は乱れていない。
意気揚々と坂の少し先を指差す。
「ち、ちょっと…待ってぇ…」
対して、まだ随分下の方にいるナナギは息も絶え絶えによろよろと顔を上げた。
しかも、クリスに腕を引っ張ってもらっているあたり、基礎体力のなさがありありと表れている。
そんなナナギを、体を捻ってナップは心配そうに見た。
そして、道中数々の爆弾発言を連発した彼は、特大級の、本日最大の爆弾を放った。
「姐さーん! 大丈夫ッスかー!」
「姐さん!?」
「しかも敬語…」
チサヤとシャオロンが揃って目を見開く。
それに対し、ナップは不思議そうに首を傾げた。
「なんかこう…姐さんって感じがするからさ」
「そうかぁ? さっきから、お前見る目ねぇなぁ」
「どういう意味よ、それ!」
「おわっ!?」
後れを取っていたはずのナナギの声に、チサヤが身を引いた。
慌てて辺りを見回すが、ナナギの姿は見当たらない。
「上よ、上」
「上ぇ?」
何故か勝ち誇ったような口調につられてチサヤが顔を上げると、そこにはクリスに首根っこを掴まれ、宙に浮かぶナナギがいた。
「うわ。かっこわりぃ」
とチサヤ。
率直な意見である。
しかし率直なだけに、ナナギは心外だとばかりに眉をひそめた。
「仕方ないじゃない。心臓が本気で危うかったんだもん」
「つーか、ナナギお前もうちょい太れば? 女として大事な部分が足りなすぎー」
「ぎゃああっ! 変なところ触んないでよ! セクハラーっ!」
「はん。セクハラなら、もっと触って楽しい女を狙うっつーの」
「余計にむかつく!」
「馬鹿、暴れんな! 落とすって」
じたばたと暴れるナナギと、それを食い止めるクリス。
騒がしい二人にいつまでも付き合っていられない。
小さく肩を竦めると、チサヤは小走りで少し先に行ってしまったナップ達を追いかけた。
「クリスなんかぺったんこのくせにっ!」
「オレはスレンダーだからな…って違う! オレは男だっての! 乳なんざあってたまるか!」
華麗談義の部分で、リィーリアに「加齢ですって!?」と言わせるかどうかすごく悩みました。