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半分狼

「もうすぐ着くな。この坂を上りきったらすぐだ」

「次の目的地ってどこだっけー?」

「ええと…」

クシナは手元の地図に目を落とした。

図面と周りの風景を見比べた後、小さく頷く。

「正式な村名ではないが、狼の里、と呼ばれているそうだ」

「狼の里ー?」

訝しげにクリスが眉をひそめて聞き返す。

ああ、とそれに対して生真面目に返事をしてから、クシナはマニュアルでも読むように説明を始めた。

「狼人間、って聞いたことあるだろ? ほら、満月の夜に狼に変身するやつ。彼らの村らしい。すぐ近くには人間の村もあるな。まあ狼人間とは言っても、進化を遂げて今は別に満月じゃなくても変身できるし、逆に満月でも変身せずにいられるみたいだけどな」

「ふーん」

咄嗟にここまでの説明が出来る所は、やはり流石としか言いようがない。

冒険者の一家だけあって、この手の知識は幼い頃から叩き込まれてきたのかもしれない。

「お、襲ってきたりしないよね?」

そんなかっこいいクシナの横で、ナナギは例に違わず情けない表情を浮かべた。

「どーだろーな? 半分狼だからな、理性がどこまで発達してるか分かんねーし」

「えっ!」

楽しそうに唇を半月型にして、わざわざ不安を煽るような事を言うのだから、クリスも大概いい性格をしている。

クリスの言葉にぎょっとして身を竦ませたナナギだったが、ふと思い立ったように態勢を立て直した。

ナナギの変化にクリスは不思議そうに首を傾げる。

「お? どーしたよ」

「クリスはすぐ意地悪言うけど、それって大体ちゃんと安全だって分かってる時だけだよね?」

「…へ?」

「ちょっとでも危険がある時は、あたしが聞く前から注意しろ、って言ってくれるもん…多分」

最後は余計だと思う。

やっぱり確信はないのか、へらへらと意味ない笑いを振りまいているナナギに、クリスはため息をついた。

それも、かなり長いものだ。

小さな手のひらでこれまた小さな顔を覆うと、クリスは俯いた。

長い髪の間から覗く耳は真っ赤だ。

「あー…やだやだ。なんかすげー恥ずかしい」

「クリス褒められるの弱いんだ」

「うっせーばーか。外見ならまだしも、中身褒められんのってなんかむず痒いんだよ」

したり顔のナナギをぎろりと睨んで、クリスはやだやだを繰り返す。

「ぎゃああああ!」

そんな時、どこからか叫び声がした。

どうやら坂の上から聞こえてきているらしい。

「なんだなんだ…うぉっ」

「な、なんか転がってきてるぞ!」

チサヤが斜面を指差す。

確かに言うとおり、坂の上の方からごろごろと何かが転がり落ちてきている。

それも、一つや二つではない。

十は軽く超えているだろう。

「なに? 何が転がってるの!?」

「…りんご、だな」

目を眇めてクリスが呟いた。

言われてみれば赤い物体が段々大きくなっている。

放っておけば、そのうち転がりきって止まるだろうが、りんごは多分小石や何やらで傷だらけになってしまうのは目に見えている。

「ったく、仕方ねーなー」

「え? クリス?」

首を傾げるナナギには答えず、クリスは音も立てずに飛び上がった。

流石精霊。

羽でも付いてるかと思うほどの跳躍力です。

空中でクリスはりんごをじっと見つめて目標を定めると、くるりと一回転そて急降下した。

「よ…っと」

地面に辿り着くと、転がり続けるりんごを素晴らしいスピードと動体視力をもってして拾い上げていく。

見事取り残しなく全てのりんごを拾うと、クリスはナナギ達の所へと舞い戻った。

狼の里編突入です!

前話は割と暗めにしてたので、今回はくだらない感じに明るくしてみました。

わだかまりなさすぎだろ、と自分でも思いました。

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