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ありがとう

「そうなの?」

確認するようにぐるりと視線を回すシーカに、クシナを始めメンバーは頷いた。

ナナギの頭にはまだウィッグが乗ったままだ。

バレはしないだろう。

「すまない。他を当たってくれないか?」

そう判断してクシナはきっぱりと言い切った。

シーカは残念そうに眉を下げる。

「そっか。それは残念」

もう一度、一人一人の顔をシーカは見渡した。

そして、ぴたりと未だ俯いているナナギに焦点を合わせる。

一瞬、メンバーの間に緊張が走った。

「じゃあ仕方ないか」

しかし、それも束の間、シーカはあっさりとナナギから視線を外した。

安堵のため息が漏れそうになる。

「手間取らせてごめんね」

「いや。役に立てなくてすまない」

クシナがそう言ったところで、シーカの笑顔が消えた。

怖いほどの無表情に変わると、シーカは右手を横にまっすぐ伸ばした。

指の先には、青々と広がる草原。

「でもまさか…嘘はついてないよね?」

何が始まるのだと首を傾げる一同に、表情をなくしたシーカは声低く言った。

す、と瞳が細まり指先がぴんと伸びる。

皆の視線がその指先に向いたその瞬間だった。

目の眩むほどの強い光が差し、続いて風の唸る音がした。

頬を、熱い風が通り抜ける。

目を指先からその先に広がるはずの草原に向けた時には、もう全ては終わっていた。

「え…?」

「嘘だろ…」

驚きを隠し切れず、クシナとチサヤが声を漏らす。

草原は、焼け野原と化していた。

シーカの指から広範囲に渡って、草が焦げるどころか炭となっている。

「ついてないよ…ね?」

黒ずみになった草原に視線すら向けずに、シーカは繰り返した。

その瞳はまっすぐナナギに向けられている。

ナナギは、ぎゅっとリィーリアにしがみ付きなおした。

無意識に、手がウィッグを強く押さえつける。

「まあ…いっか。邪魔してごめんね?」

またシーカは笑みを張り付けると、音も立てずにナナギに近寄った。

周囲が止める暇もなかった。

小さく、ナナギが息を呑む。

間近になった緑と青の瞳に身を竦ませ、ナナギは俯いた。

それに対し、シーカは少し切なそうな表情を浮かべる。

「今度は声聞かせてね? 赤ずきんちゃん」

「あ…」

ナナギがはっと顔を上げると嬉しそうに笑うと、シーカは霧のように掻き消えた。

なんの余韻も残さず。

何故かナナギはそれを追うように手を伸ばす。

その手が届くことはなく、虚空を掴み力なく落ちた。

「ナナギ…?」

リィーリアが心配そうにナナギを覗き込む。

その視線にナナギは深呼吸をしてから、二、三度何かを噛み締めるように頷いた。

「うん。大丈夫、ありがとう。行こっか」

しがみ付いていた手を離し、まるでこの話は終わりとばかりにナナギは歩き出そうとする。

そんなナナギにクリスとチサヤは眉を吊り上げた。

「ちょっと待て。勝手に話完結させんな」

「そーだよ。お前は良くても、オレらは意味も状況も分かんねーんだ。説明、しろよ」

「…」

躊躇うように、ナナギは瞳を伏せた。

ずるりとウィッグが滑り落ち、いつもの赤毛が現れる。

「言うよ。絶対全部話す。だけど今は…」

「分かった」

「へ?」

「いいよ、分かった。今言いたくないなら別に構わない。いつか話してくれるなら、俺は待つよ」

柔らかな笑みを浮かべて、クシナはナナギを見つめた。

そして、一人一人を見回す。

「ナナギが絶対いつか話すって言ってるんだ。それじゃ駄目か? それとも、今無理に聞き出さないといけないのか?」

クシナの言葉に、一時置いてから一同はため息をついた。

「その言い方はズリーよ、クシナ。それ以上何も言えねーじゃん」

「ったく。ホントお前昔っから人に甘いよな。このお人好し」

がしがしとクリスは乱暴に髪を掻き毟る。

盛大にもう一度ため息をついてから、困惑して曖昧な表情を浮かべているナナギに向き直った。

いつものように、にやりと口角を上げる。

「仕方ねーから、もうちょっとだけおとなしく待っててやるよ」

「クリス…」

「あ、でもオレ気は短い方だからな。あんまり焦らすよーなら、自白剤飲ませてでも白状させるからな」

「あまり一人で抱え込んでは駄目よ?」

「相談くらいは乗るからね」

「またあいつが来ても、必ず貴女は守りますから、安心してください」

口々に掛けられる優しい言葉に、ナナギは目を細めた。

反芻するようにまばたきを繰り返して、ナナギは小さな声で呟く。

「ありがとう…」

次話からは、次の編に入りたいと思います~。

一応幽霊城編はオールキャラのつもりで書いたんですけど、今回はクリス多目になるかもです。



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