表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/61

実用性も活用性もない

「本当、色々ごめんなさいね」

幾分か目の周りが腫れてはいるものの、ソフィアは笑った。

苦しみや悲しみ、多くのものが落ちてすっきりした笑みに、一同も自然と頬を緩ませる。

「全くだわ。何度謝ってもらっても足りないから…もう謝らなくていいわ」

「リィーリア…」

素直じゃなくとも優しい言葉に、ソフィアは嬉しそうに目を細めた。

二人の仲も、どうやら一件落着のようである。

「天邪鬼ですね。素直に言えばよいものを」

「でも、結果オーライだよね」

「まあその通りですけど…」

和やかな空気が流れた所で、唐突にソフィアが手を叩いた。

「そういえば! ナナギにあげたい物があったんだったわ」

「あ、あたしにですか?」

「ええ。そうよ。何かお礼をしたいなーって思ってね」

にっこりと、ソフィアは破顔した。

その笑顔につられてナナギもへらりと笑みを浮かべる。

「はい、どうぞ」

「うわっ」

言葉と共に、どこから取り出したのかソフィアはナナギの頭に何かを被せた。

鼻や口、顔の至る所に当たる細い感触にナナギは慌てるが、それは周りのメンバーの声にかき消された。

笑い混じりの歓声に、ナナギは目を丸くする。

「えっ。なに? 何が乗ってるの?」

「鏡で実際に見てみたらどうかしら?」

リィーリアが軽快に指を鳴らすと、ナナギの目の前に大きな全身鏡が現れた。

そのつるりとした鏡面に映っているのは、普段と別段変わりはない…いや、あった。

トレードマークの茜色の髪が、鮮やかな金髪に変わっている。

シャンデリアの光を受け、きらきらと輝くその金髪に、ナナギは瞳も負けじと輝かせた。

「ブロンドのウィッグだ~!」

「これくらいしか、あげられそうな物がなかったの」

「すごい嬉しいです! ありがとうございます!」

「実用性も活用性もないけどな」

「クリスうるさい!」

ナナギに睨まれ、クリスはあまり気にしてもなさそうに、ひょいと肩をすくめた。

確かにクリスの言うとおりだが、人間の世の中口に出すべきことと出さずにいるべきことがあるのだ。

そこら辺を精霊にも分かっていただきたい。

そんな微妙に人間の空気の読めない精霊、クリスの失言にもソフィアはおおらかに笑みを保っている。

怒って剣とかを持ち出してこないあたり、本当にもう先ほどまでとは別人のようです。

「いいわ。本当のことだし」

「あの…」

「ん?」

傍らに立っていたクシナが控えめに挙手した。

ソフィアはクシナに視線を向けると、首を傾げる。

「これからソフィアさん達はどうするんですか?」

「ああ。そうね、もうしばらくだけ二人でこの城に住ませてもらおうかと思ってるの。本当は写真が見つかったら、すぐにでも成仏するつもりだったんだけどね」

いたずらっぽく、ソフィアは唇を持ち上げた。

クシナも柔らかく笑みを返す。

「そうですか」

「だから、いつでもまた遊びに来てね」

「ちなみに…レイクさんが見当たりませんが?」

クシナの問いに、ソフィアは顔をしかめた。

「寝てるわ。久しぶりに実体保ったら疲れたそうよ」

「そうなんですか。挨拶しておきたかったんですけど…」

「無理ね。彼、一度眠ったら、てこでも起きないから諦めて。ほら、それに永遠の別れでもあるまいし、ね?」

鼻を鳴らすソフィアに苦笑して、クシナは頷いた。

そして、がやがやと落ち着きのないメンバーを見渡すと、皆を代表して頭を下げた。

「では、そろそろ出発しますね。色々とご迷惑をかけてすみませんでした」

「いやね。急に改まっちゃって。まあいいけど、なら私もちゃんとさせてもらうわ。…こちらこそ感謝していますわ。満足な御持て成しも出来ませんでしたが、お許しを。またのお越しを心よりお待ちしています」

王族らしい高貴な雰囲気を漂わせ、美しくソフィアは礼をする。

さらりと髪が細い肩を撫で、滑り落ちる。

予想外にかしこまった言葉を貰ったクシナは、他の皆にもしっかり挨拶をさせるべく、後ろを振り返ったのだった。

これにて幽霊城編は完結です。

…が、次の編に入る前に三話程挟みます。

ちょっとシリアスも含みますので、ご注意を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ