表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/61

貴女を憎んでなんていない

妹とは異なる、父譲りの淡い水色の髪を背中に流し、浅く椅子に腰掛ける女性。

その顔は、白いというよりも、青白いという方が正しく、顔立ちも整ってはいるのに、やつれた頬と目の下の隈のせいで、気難しい印象を持っていた。

腕も脚も胸も、女性らしい肉付きがなく、冬の枝木のようだ。

そんな女性は机を見つめたまま、虚ろな表情をしている。

「姉ちゃん?」

控えめな声と共に戸の軋む音がした。

女性の表情が、一瞬光を帯びる。

「ああ。もう帰ってきたの。で、どうだった?」

抑揚のない声に、戸の少女が躊躇いがちに眉を寄せた。

「ん。普通だよ。あの、それでさあたし、準備したら、もうすぐ出発するから」

「……え?」

「今日出発なの。装備とかは、向こうでちょっとずつ買うから…」

少女は薄く笑うと、こう付け加えた。

お金も心配ないから。

「ナナ………ギ」

名を呼んだときには、もう妹はそこにはいなかった。

そっと、女アオイは唇を噛む。

また、言えなかった。

違うの。

そうじゃない。

お金なんか、どうでもいいの。

じわりと、紺碧の瞳が揺れる。

なんで言えないのだろう。

伝えたいことは、たった一つ。

たった一言なのに…。

「もう、貴女を憎んでなんていないのよ。ナナギ…」

消え入りそうなその声が、妹に届くことは、なかった。



「うー。やっぱ姉ちゃんと話すのは緊張するなー」

言ってみてから、会話にもなってないか。

と、服をたたむ手を止めて、苦笑する。

あれじゃ、挨拶程度だな。

「また、こっちを見てもくれなかったな…。ま、そりゃ当たり前だよね…。全部、あたしのせいなんだもん。あたしが、全てを壊したんだよね………」

わざと明るくナナギは、早口でまくし立てると、不意に俯いた。

「ごめん………」

ぽたりと、たたんだばかりの服に小さな染みが浮かんだ。

数秒おきにだが、雫は確実に服を濡らしていく。

ぽたぽたと零れる、その塩辛い液体に、ナナギは泣き笑ってみせた。

「えへへ。旅に出るんだから、姉ちゃんともお別れだね」

涙を拭いて、目を細めるナナギの笑みはどこか儚げだ。

涙に濡れた服を、くしゃりと握り締めるとナナギは立ち上がり、白い机に歩み寄った。

「これも、持って行かなきゃねー」

金の取っ手を引き、引き出しを開ける。

ごちゃごちゃと、要るもの要らないものが、ごちゃ混ぜ状態なった引き出しを覗き込み、ナナギは中を探る。

こつり、と手に当たった硬い感触に、安心したようにナナギは息をついた。

「あったあった」

そう言いながら、目当ての物を引っ張りだす。

それは、小さな色とりどりの宝石がちりばめられた、銀の華奢な髪飾りと、それに似合った銀のシンプルな、指輪と腕輪が鎖で繋がれたアクセサリーだった。

両親からの、最後のプレゼントだった。




「じゃ、行ってきまーす」

結局、出発のその瞬間もアオイは現われず、ナナギの声は寂しく玄関に響き渡った。




さよなら。

また会う日まで。


こんにちは。

椎名です。

予告どおり・・・?

ちょっぴりナナギの過去話です。

姉ちゃんのアオイちゃんとは、なにか蟠りがあるようですね。

次話は、明日更新の予定。

なんだかんだで、出発しま~す。

では。

             瑞夏

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ