とっても大事な物
「そういえば!」
部屋に広がった微妙な空気を払拭したのは、ナナギの明るい声だった。
なんだなんだとばかりに、六人はナナギを見る。
嬉しそうに一人一人の顔を見返しながら、ナナギは人差し指を立てた。
「あたし、多分そのペンダントの場所分かるよ!」
「えっ!?」
皆を代表してクシナが声を上げる。
その後、クリスが胡散臭そうに言った。
「本当かよ? ぬか喜びなら御免だぜ」
「た、多分!」
「多分って何だよ…」
呆れたように眉を下げるクリスに、ナナギはでもでも、と続ける。
「あたし見たんだよ! えーとあのー、そう! あたしが電気にぶつかって転けたところで!」
「転け…。あー、そんなこともあったなー」
比較的今日の出来事の中では平和な事件だ。
あまりにも濃いイベント尽くしな一日に、メンバーはどことなく遠い目をする。
何なんだ今日は。
厄日なのか?
そう問いたくなるほどに、危険が多い日だった。
「…で? そこで見たのかよ?」
今度はチサヤが口を開く。
その問い掛けにナナギは大きく首を振った。
「うん! 銀のペンダント!」
自信満々なナナギの返答に、チサヤはクリスと顔を見合わせる。
「じゃ、行くか」
誰からともなくそう言うと、勇者ご一行は足を進めた。
『ソフィア』
部屋に響いた声に、ソフィアは少し目を見開いた。
しかし、すぐにまた不機嫌に眉根を寄せる。
「…なぁに?」
『まだ怒ってるのかい』
苦笑気味に呟かれた言葉にソフィアは鼻を鳴らす。
「別に。レイクのお人好しは昔からだし」
『お人好しなわけじゃないけど…。それより、ペンダントって?』
「…」
ソフィアは何も言わずに少し俯いた。
拍子に薄金の髪が波打つ。
「私、いつまでもこんなとこで幽霊やりたくないのよ」
『へぇ?』
興味深そうにレイクが相槌を打てば、ソフィアは続ける。
「さっさと成仏してしまいたいの」
ふ。
ソフィアは自嘲するように薄く微笑んだ。
何もない部屋の一角を見つめ、今度はにっこりと笑う。
「あのね、私今でもあなたのことが大好きよ」
『と、唐突にどうしたんだよ』
戸惑ったような声にソフィアは目を細めた。
「だから、ペンダントがないと成仏できないの」
『…? ごめん、よく分からないんだけど』
「でしょうね」
ソフィアの理由の抜けた返答に、レイクは不満げに言う。
『教えるつもりは?』
「ないわ」
『…』
ばっさり切り捨てたソフィアに、レイクは何ともいえない沈黙を作った。
『まあいいや。でも、ペンダント一つで満足できるのかい?』
「ええ」
はっきりと言い切ってソフィアはそっと瞳を閉じた。
「とっても、とっても大事な物なの」
『…見つかると、いいな』
言い残し、微かに感じていた気配さえも消え失せる。
完全に一人となった部屋で、ソフィアはぽつりと溢した。
「大切なものなのよ…」