時の流れ
クシナの声に反応するように、部屋の一部が揺れた。
直後、誰もいなかったはずの空間に、一つの人影が現れる。
細い腰を覆う、長く波打つ金髪は黄金というよりかは、薄茶に近しい色をしている。
長い睫毛に縁取られた瞳は深い青色をしている。
裾の広がった淡い色合いのドレスには、至るところに繊細なレースや控えめな装飾が施されていた。
ウエスト部分を彩る金のチェーンには、真っ赤な宝石がはめ込まれている。
それと対になるように、金髪を飾るティアラだけが何故かくすんでいて、時の流れを一身に背負っているようだった。
「ええ。私はこの城の王女、ソフィアよ」
凛とした声音は、先ほどよりも随分落ち着いている。
「さっきの剣ってあんたがやったの?」
悠然とした態度でクリスが問うた。
その口調には、別に怒りが込められているわけでもなく、ただ純粋な質問だった。
「そうよ」
短く、簡潔に返ってきた答えにクリスがにやりとした。
「ふーん。あれさぁ、完璧にオレらの息の根止めるつもりだったろ?」
「当たり前よ」
少しも悪怯れることなく言って除けるソフィアに、後ろでリィーリアが鼻を鳴らした。
「まぁっ。あなたの勘違いで殺されたのでは割に合わなくってよ?」
その一言に、ソフィアも眉を上げた。
「あら、不法侵入者には当然の制裁だと思うわ」
「不法侵入者? このわたくしが?」
一応プライドは高いリィーリアだ。
不法侵入者はお気に召さなかったらしい。
「まあ。自覚なかったの?」
「…おあいにく様。わたくし、こんな薄汚れた小屋にお邪魔する趣味はなくてよ? シャオロン、この小娘にいつもの毒舌をはいておやりなさい!」
びしぃっと人差し指を伸ばしてシャオロンをけしかける。
精一杯の悪態をついて、あとはシャオロンにバトンタッチらしい。
確かにシャオロンにかかれば、口で勝てる相手はいないと思いますけど。
でも…
「嫌ですよ。何故私が貴方などのために、毒舌をはかないといけないんですか。自分の矜持位、自分で守って下さいよ」
シャオロンが易々とリィーリアの命令を聞くわけ、ないですよね。
はん、と鼻で笑いながらシャオロンは一刀両断で断る。
「…」
綺麗に伸びた指が虚しいです。
「あー。いつまで不毛な言い争いを続けるつもりなんですか、リィーリアさん」
困ったようにクシナが助け船を出した。
助け船かどうかも微妙だが、ソフィアが我に返ったのは事実のようだ。
ほんのり頬を赤くして咳払いを一つすると、口を開いた。
「そうね。本題に入らせてもらうわ」
「そうしてもらえると嬉しいです」
「…私の過去は知っているわよね」
ひくり、クシナの頬を引きつる。
さすがにヘヴィーな過去ですからね。
「は、はい」
「謀反にあったんだろ。クシナ、八つ橋に包んでちゃ話が進まねぇよ」
ソフィアよりも濃い金の髪を掻き上げながら、チサヤが一歩前に出た。
にやりとソフィアが口角を上げる。
「分かっているじゃない。そうよ、遠回しな言い方は面倒くさいの。だから単刀直入に言わせてね」
「どーぞ」
チサヤの返事に、ソフィアは満足そうに頷いた。
「私の捜し物を見つけてほしいの」




